1.アルカリ性付与剤
話の始めに戻って、当時の住宅公団の中性化委員会での、私の役割は中性化したコンクリートのアルカリ性回復であった。 これは、故岸谷教授の珪酸リチウム水溶液がアルカリ性回復剤として使えるのではないかとの発想によるものであり、 弊社が中性化委員会の委員に選ばれたのも、珪酸リチウムのメーカーであったからである。
ここで、珪酸リチウム水溶液とは何かについて簡単に説明しよう。
上記のように、珪酸リチウム水溶液は低粘度、アルカリ性、乾燥固化物は耐水性があるという特徴がある。 この材料を、中性化したコンクリートに含浸させアルカリ性を回復させようという狙いである。 中性化したコンクリート全体のアルカリ性は回復できないが、ひびわれ部、脆弱部、鉄筋露出部などには効果的に作用する。また、無機質で脆弱部への強化作用がある(表面引張り強度で1.5~2倍強度が向上する)ので、補修用下地処理剤としては打ってつけの材料である。
現在、リフリート(故岸谷教授の命名)工業会よりRF−100の商品名で販売されている。また建設省(現国土交通省)の補修・改修指針でアルカリ性付与剤としてうたわれているのは、この材料を指してのことである。
2.電気化学的アルカリ性の回復
昨今、コンクリートに通電してアルカリ性を回復させようとの試みがなされている。アルカリ付与剤が、ひびわれ部、脆弱部、鉄筋露出部などに限定されるのに対して、中性化したコンクリート全体をアルカリ性に戻してやろうとの試みである。原理を以下に示す。
見てわかる通り、未中性化部分のアルカリ(OH−)を、電気の力で中性化部分に引張ってやろうとするものである。基本的には電気防食の考え方と同じだが、流す電流がはるかに大きい。通常鉄筋の表面積1m2当たり1アンペアの電流を流す。流す時間は、数時間から1日程度ではないかと推測している。
問題点は、鉄筋位置まで中性化している場合には適用できないこと、もともとのコンクリート中のアルカリ〔Ca(OH)2〕量に比べれば、電気泳動により導入したアルカリ量ははるかに少ないので、仕上材で被覆しないと再中性化が早いこと、処理コストが嵩むことなどである。同様な方法により、脱塩化物イオンを図ることができるが、それに比べれば流す電流が少ないので、鉄筋周辺へのアルカリの集中によるコンクリートの軟化、水素脆化、アルカリ骨材反応の発生などの心配は少ない。今後、施工コストが下がってくれば一般に普及するであろう。
中性化の回復、内部鉄筋の防錆処理が行われた物件として著名なところでは、大阪城がある。外壁は電気化学的方法が採用され、内部は後で述べる亜硝酸リチウム水溶液の塗布工法が採用された。
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