■コンクリート用混和材料の常識
第04回:高性能減水剤・流動化剤(その1) 藤田 康彦

高性能減水剤とは
日本では減水剤と高性能減水剤を区分する明確な定義や品質基準はありませんが、一般には減水剤のなかでも特に高い減水性能を持った混和剤を高性能減水剤と呼んでいます。通常の減水剤が 4~6% 程度の減水率であるのに対して、高性能減水剤では12 ~ 15 %の減水率が得られますし、配合や使用量によっては20 ~ 30 %の減水率を得る事も可能になります。


図-1 高性能減水剤の添加量と減水率の関係

高性能減水剤のセメント分散機構
減水剤がセメント粒子の表面に吸着し、静電気的反発力を付与することによってセメント粒子を分散させることは前回お話しました。高性能減水剤のセメント分散機構もこれと同じなのですが、セメント粒子に付与する静電気的反発力が桁違いに大きいので、セメント粒子はフロックを作ることが出来ず、殆どバラバラに成ってしまうのです。

分子の分散と凝集のメカニズムは古くから研究されて来ましたが、セメント粒子の分散機構はDLVO理論によって説明されています。少し専門的な話になりますが、折角の機会ですからDLVO理論について解説しておきましょう。DLVO理論というのは、Derjagunin,Landau,Verway,Over-beekと云う研究者達の頭文字から命名されており、それだけ多くの人達が分散と凝集のメカニズムを研究して来たという事ですが、簡単に言うと、分散力(V)は分子間に働く引力(V)と斥力(V)の差として得られると云うものです。

           V = V A    (Vは負の値になります)

突然ですが、発泡スチロールを細かく砕くと小さい破片はあたり構わず何にでもくっ付いて来ます。発泡スチロールの細片は質量が小さいためにわずかの静電気を帯びても非常に不安定な状態になってしまうので、何かにくっ付くことで全体として少しでも安定なエネルギー状態に近づこうとするのです。セメントペースト中のセメント粒子もこれと同じで、セメントに加水すると水和反応が始まりセメント粒子の表面には正の電荷が発生するため不安定な状態になります。このためセメント粒子はお互いにくっ付き合ってフロックを形成することで少しでも安定な状態を作ろうとするのです。しかし高性能減水剤を添加すると、セメント粒子の表面に界面活性剤が吸着して強い負電荷を帯びる結果、セメント粒子間に強い斥力が働いて通常の減水剤を遥かに上回る分散状態が得られるのです。


図-2 粒子間のポテンシャルエネルギー曲線

敷居が高いと居心地が良い?
図-2 はDLVO理論のポテンシャルエネルギー曲線を表していますが、図の様にV値は粒子間距離とセメント表面の電位(ゼータ電位)によってある値を示します。ゼータ電位がある程度大きくなると極大値VMAXが表われ、粒子の分散は安定します。このVMAXは分散状態が凝集状態へ移行する時のエネルギー障壁となるので、VMAXが大きいほど分散は安定します。

これだけの説明では良く意味がわからないかも知れません。具体的に言うとこうなります。粒子間距離X1で安定分散している2つの粒子を想定し、この粒子間にはV1と云う斥力が働いているとします。この2つの粒子を外力で距離XMAXまで近づけて行くと、この2粒子間に働く斥力はVMAXに近づきます。図のポテンシャルエネルギー曲線を見るとVMAX>V1ですから粒子間には今までより大きな斥力が働く事になります。従って外力を取り除けばまた元のX1の距離まで離れて安定な状態に戻ろうとするはずです。

次に、VMAXを上回る大きな外力が働いて2粒子間の距離がX0まで縮まったとしましょう。今度は外力を取り除いても元のX1の距離まで離れようとはしません。VMAXを乗り越えるよりも、逆に最大引力の働くRMINまで近づいた方が安定な状態になるので凝集を始めることになるはずです。

図-3 はDLVO理論によるエネルギー障壁の考え方を概念的に表現したものですが、分散状態から凝集状態へ荷車を移動する時に、間に山があれば乗り越えなければなりません。このとき、山が高ければ高いほど容易に乗り越えられなくなるので安定な状態を保つ事が出来る、と云う理屈です。


図-3 DLVO理論によるエネルギー障壁の概念

高性能減水剤の成分
通常の減水剤はオキシカルボン酸塩やリグニンスルホン酸塩のように界面活性効果を持った天然物質が基剤として使われています。これらの物質の分子量は数百~数千程度です。これに対し、高性能減水剤に使用されている基剤はその殆どが工業的に作られる合成高分子化合物で、その分子量は万単位になります。高分子化合物はカルボキシル基やスルホン基と云った官能基の総数が多くなるので、セメント粒子に大きな電荷を与える事が出来るのです。

高性能減水剤の基剤として最も有名なのがメラミンスルホン酸塩とナフタレンスルホン酸塩です。メラミンスルホン酸塩はドイツで、ナフタレンスルホン酸塩は日本で実用化されました。いずれもセメントの水和反応を阻害せず、起泡作用もないので多量に使用してもコンクリートの凝結は遅延せず、空気量もほとんど増加しません。その結果通常のワーカビリティーのまま水セメント比を小さくする事が出来、特殊な養生を行わなくても60~100N/mm2の高強度コンクリートを比較的容易に製造する事が可能となったのです。

高性能減水剤の基剤としてよく使われるナフタレンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、の基本骨格については次回高性能AE減水剤の所で紹介する事にしたいと思います。


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