高性能減水剤のセメント分散機構
減水剤がセメント粒子の表面に吸着し、静電気的反発力を付与することによってセメント粒子を分散させることは前回お話しました。高性能減水剤のセメント分散機構もこれと同じなのですが、セメント粒子に付与する静電気的反発力が桁違いに大きいので、セメント粒子はフロックを作ることが出来ず、殆どバラバラに成ってしまうのです。
分子の分散と凝集のメカニズムは古くから研究されて来ましたが、セメント粒子の分散機構はDLVO理論によって説明されています。少し専門的な話になりますが、折角の機会ですからDLVO理論について解説しておきましょう。DLVO理論というのは、Derjagunin,Landau,Verway,Over-beekと云う研究者達の頭文字から命名されており、それだけ多くの人達が分散と凝集のメカニズムを研究して来たという事ですが、簡単に言うと、分散力(V)は分子間に働く引力(VA)と斥力(VR)の差として得られると云うものです。
V = VR + VA (VAは負の値になります)
突然ですが、発泡スチロールを細かく砕くと小さい破片はあたり構わず何にでもくっ付いて来ます。発泡スチロールの細片は質量が小さいためにわずかの静電気を帯びても非常に不安定な状態になってしまうので、何かにくっ付くことで全体として少しでも安定なエネルギー状態に近づこうとするのです。セメントペースト中のセメント粒子もこれと同じで、セメントに加水すると水和反応が始まりセメント粒子の表面には正の電荷が発生するため不安定な状態になります。このためセメント粒子はお互いにくっ付き合ってフロックを形成することで少しでも安定な状態を作ろうとするのです。しかし高性能減水剤を添加すると、セメント粒子の表面に界面活性剤が吸着して強い負電荷を帯びる結果、セメント粒子間に強い斥力が働いて通常の減水剤を遥かに上回る分散状態が得られるのです。
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