■亀の子コンクリート考
第四十九回:天道と人道 小林 映章

物事には天の道と人の道がある。

戦前の人であれば、二宮尊徳を知らない人はあるまい。薪を背負った幼い二宮金次郎の像が全ての小学校に建立され、二宮金次郎を手本にしなさいと強く教えこまれたものである。このため、日本軍国主義の手先のように取られていたこともあるが、それは当時の軍部、政府が勝手に利用していただけのことである。二宮尊徳は偉大な学者、宗教家、政治家であり、かつ篤農家であった。そのどれをとっても卓越した指導者であった。二宮尊徳の教えを集めた小冊子に「二宮翁夜話」というのがある。昭和10年頃、内外書房から出された文庫本で、尊徳の高弟の福住正兄という人が著したものである。二宮翁夜話の始めの方に、翁が「天道と人道」について説いた件がある。それを一口で言うと、
天道とは、自然の道である。万物は等しく天の恵みを受けて育ち、死んでいく。ヒトにとって大切な穀物も、邪魔な雑草も天の下では区別がない。天理よりみると善悪は存在しない。天理に従えばやがて荒野になる。一方、人道はヒトがヒトのために立てた理であり、穀物は善であり、雑草は悪である。したがって、人道に従えば、穀物を育て、雑草を除去するのが善である。

さて、いまの世の中で天道は何で、人道は何だろう。とりとめなく、思いつくままに書き並べてみると、

〈天道〉
  • 年々巨大な地震や台風で国土が荒らされる。
  • 日々山で樹木が生育し、やがて手入れを怠った森林がジャングル化する。
  • 毎年渡り鳥が群をなして飛翔する。
  • トキが絶滅する。
〈人道〉
  • 現代社会を象徴する新幹線、高速道路等の輸送網が充実する。
  • 世界を覆うネットが万物の上に君臨する。
  • とことんエネルギーを開発する。
  • 人工高分子など自然界に存在しなかった物質が造り出される。
  • 遺伝子組み替え技術により医薬品や食料の開発、増産が計られる。
  • 災害で荒らされた地の復興や災害対策工事が公共の費用で行われる。
いま各地で自然・環境の保護vs開発といったようなことで衝突が起きているが、これらをよく見ると人道にもとるものが多いように思われる。

それでは、天道でも人道でもないものは何だろう。

  • 一部の人達の利権のために行われる、狭い国土内での必要性に欠ける新空港や整備新幹線の建設、リニヤモーターカーの構想など。
  • 際限のない動物愛護、ペット愛護。
  • 医療の名の下で造られる試験管ベイビーやクローン人間。
建設業ではとかく地域住民の反対に遭遇するが、これはその性格上天道に逆らうことが多いからで、やむを得ない面がある。しかし、人道に則って行われていれば、たとえ地域住民の反対が大きくても、やがて理解を得られるものである。

建設業を天道と勘違いしてはならない。建設業を天道と考えていたら、国土も経済も、やがては人心もことごとく荒れ果ててしまうことになる。

建設業は人道を行うものであって、天道を行うものではないことを銘記しておきたい。


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