株式会社浅見製作所
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■私のコンクリート補修物語
第5部 防錆剤を用いたコンクリート補修 堀 孝廣

5-3 亜硝酸リチウムの誕生

 さて、浸透性防せい剤塗布工法の研究開発が進められていたのと同じ頃、私もまた、珪酸リチウムだけでは塩化物イオンを含んだコンクリート中の鉄筋腐食に対応できないことに悩んでいた。そんな時、ある塗料会社の待合室で何気なく業界紙を見ていたところ、アルミサッシのコンクリートに接する部分の腐食問題が取り上げられていた。その中で、硝酸リチウムをプライマーとして使うと、アルミサッシの防食効果が高いことが報告されていた。その記事を見ているうちに、【アルミサッシの防食に硝酸リチウムが効果が高いのであれば、鉄筋に対しては、硝酸塩を亜硝酸塩に置換した亜硝酸リチウムは使用できないだろうか。また、防せい効果は亜硝酸イオンの量で決まるとしても、珪酸リチウムと同じリチウム塩であれば、珪酸リチウムと亜硝酸リチウムを一液化した材料が開発できるかもしれない。】という考えが浮かんできた。それまでの亜硝酸塩系防せい剤は、コンクリート用に亜硝酸カルシウムが、冷却水用などに亜硝酸ナトリウムが知られているのみであった。

 ちなみに、珪酸リチウム水溶液の中に、ナトリウムとかカルシウムとかの異なった金属イオンがごく少量入っただけでも水溶液は白く濁ってしまい、一液化することはできなかった。

 研究所に帰り直ぐに亜硝酸リチウムに関する調査に入った。まず研究所出入りの試薬メーカーにあたったが、製造しているところはなく、試薬としても無いということであった。化学大辞典をみると、亜硝酸銀と塩化リチウムの水溶液を混ぜると塩化銀が沈殿するので、ろ過すれば亜硝酸リチウム水溶液が得られると記述してあった。そこで、早速亜硝酸銀と塩化リチウムの試薬を取寄せ、これら水溶液を混ぜ合わせてみた。この反応は極めて単純で、亜硝酸リチウムの15%程度の水溶液が容易に製造できた。できた水溶液の安定性の良さそうなので、珪酸リチウムの水溶液の中に少量添加してみると見事に混ざり合い、透明な珪酸リチウムと亜硝酸リチウムの混合水溶液を得ることができた。水溶液の保存安定性を確認するために40℃に1日放置したが全く問題なかったので、これをガラス板の上に塗布し乾燥状態をみると、亜硝酸リチウムの添加量が多くなると、さすがに白濁し透明なガラス状固形物にはならなかった。しかし、10%の珪酸リチウムの水溶液に対して亜硝酸リチウムが固形分で1.5%程度まで添加できることがわかったので、これを磨き鋼板に塗布し、乾燥後食塩水を噴霧し、腐食状態を観察した。

 結果は、腐食の進んだ順に以下の通りであった。
無処理 〉〉 珪酸リチウム水溶液処理 〉〉 亜硝酸リチウム水溶液処理 〉 亜硝酸リチウム添加珪酸リチウム水溶液処理

 亜硝酸リチウムが面白そうだということはわかったが、亜硝酸銀の試薬から作っていたのでは、とても量的にもコスト的にもモルタルやコンクリートを対象とした実証実験には進めない。何とか製造方法がないものだろうかと考えたが、実験室で手軽に作れる方法はなかった。亜硝酸塩は、工業的にはNOxガスを金属水酸化物の溶液中に吹き込んで製造する。このNOxガス中のNOとNOの比率が理論的にはモル比1:1で反応する。 例えば、亜硝酸ナトリウムは以下のような反応で製造される。

 ところが、問題はNOとNO2のガスの入手が一般にはなかなかできない。NOxガスは周囲の環境条件(温度、酸素濃度など)によって、その形態をさまざまに変化させ、NO或いはNO2ガスを単独で取り出すことが難しく、また安定して保管することも難しい。

 亜硝酸リチウムの製造に関しては、企業秘密に属する部分もあり、詳細は明らかにできないが、幾多の試練の末に何とか製造できる目処がつき、しばらくの間、工場に通っては、亜硝酸リチウムの25%水溶液を1L、5Lというように、少量の試験用サンプルを製造しては研究所に持帰り、モルタル試験、コンクリート試験に供する日々が続いた。


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