■夢追人のコラム:1999年09月03日号
No.04:コンクリートへの信頼は取り戻せる!? 夢追人

6月27日の山陽新幹線福岡トンネルでのコンクリート内壁崩落事故をきっかけに、あちこちでコンクリートの劣化や施工不良がマスコミを賑わした。コンクリートに係わる人達にとって肩身の狭いことである。
8月28日(土)の日経新聞朝刊のサイエンス・アイ「技術のブラックボックス化」(編集委員塩谷喜雄氏)の記事を、長くなるが以下に引用させていただく。

「二十世紀の技術文明は、道具や製品の徹底したブラックボックス化と、その操作や使用法のマニュアル化が最大の特徴だという。中味を知らなくても安全に使えるという仕掛けだ。しかし、地震や事故で最近相次いで明らかになった建設技術のブラックボックス化の中味は、思わず身震いするほどお寒いものだ。トルコ西部を襲った大地震では、建物の設計や構造のほかに、コンクリートそのものの強度不足や、施工の手抜きなどが大きな問題として噴き出している。
日本では、阪神大震災で倒壊した高速道路、トンネルや高架橋での崩落が心配されている山陽新幹線、そして築後二、三十年をへてコンクリートの崩落が始まったマンション群..............。外壁はきれいに仕上げされ、内装が出来上がれば、コンクリートの内部はうかがいしれない.............。建設分野はいわゆる業界の内部的相互依存関係が強いといわれる。行政も含めてそうした体質が、素人にはわかりにくいブラックボックスを形成してきたのかもしれない。−中略ー現在のコンクリートクライシスと呼ばれる状況も、建設技術を社会がブラックボックスのままにしてきたツケだといえる。」

このように世の人々のコンクリートへの信頼を大きく損なわせ、負の遺産としてこれらを後世に残すことになってしまった...........。
記事中の「建設技術のブラックボックス化の中味は、思わず身震いするほど.....」の指摘には、コンクリート分野を考えてみても、その通りと言わざるをえないのではないか。コンクリートのブラックボックス化の原因のひとつに、配合に基づく生コンの製造・運搬・受入・圧送・打設・養生の各工程、さらに工程間の時系列的(連続)かつ定量的な製造(施工)記録・品質記録の採取など、一連の技術とシステムが確立されていないことがあると思う。他の基幹産業の製造にあっては、こうしたプロセスや品質の記録が時系列に、しかも定量的に採取・保存され、品質、性能保証のためのシステムが確立しているのである。

建設産業に携わる大半の技術者は、その技術が管理しやすい工場ではなく、一時的な現場で応用されるということと、対象物がかなりの安全率を見込んだ示方・規格・基準に基づいていることから、上記の技術・システムの必要性を認識していないように見える。たとえ認識していたとしても、がっちりと出来上がったゼネコンを頂点とするヒエラルキーがあまりにも強大、強固でどうにもならないと諦めてきたのだろうか?

そんな中で、最近の規格・仕様規定から性能規定への一連の流れは、心ある関係者の努力が感じられて、私は少なからず得心している。最近の科学技術の進歩のスピードを考えれば、この性能保証に必要な技術・システムの速やかな開発は十分可能である。コンクリートの生産と施工時の製造・品質記録を保存するためには多くのコストを要することになるが、造られた構築物のライフコストを考えると最終的には安くなることは間違いない。意識改革と技術開発でブラックボックスを開放し、透明にすることが、コンクリートへの信頼を回復する道につながる。
いま、コンクリートに係わる技術者はみずから、このためにどうあるべきか提言することをためらってはならない。


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