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水の話
■水の話 ~化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!~
2章 いろいろな水 小林 映章

2.2 処理の異なる水

2.2.2 電解水

(2)アルカリイオン水
 アルカリイオン整水器というのがあります。まず、これはどんなものかみてみましょう。

(アルカリイオン整水器とは)
 水道水を整水器に通します。次いでカルシウム剤(乳酸カルシウムなど)を溶かして電気分解します。こうしますと、カソードに「アルカリイオン水」、アノードに「酸性水」ができます。

 乳酸カルシウム添加水を例にとってこの反応を考えてみましょう。電気分解で起きる反応は次のようになります(但し、電子の出入りは省略します)。

 乳酸カルシウムをCa(Lact)2、乳酸をLactHと表すことにします。乳酸カルシウムは水中で次のように解離しています。

Ca(Lact)2 Ca2+ + 2Lact-

 電極では、

カソード: 2Ca2+ + 4H2O → 2Ca(OH)2 + 2H2
アノード: 4Lact- + 2H2O → 4LactH + O2

 さらに元々水道水に含まれていたカルシウムイオンやマグネシウムイオンなども隔膜を通してカソードに、塩化物イオンや炭酸水素イオンなどはアノードに引き寄せられます。

 上記のように、カソード側にできたアルカリイオン水は主に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の水溶液です。すなわち、うすい炭酸水ができているわけです。また、アノード側には乳酸などを含む酸性水ができています。

(アルカリイオン水はどのような効果があるか)
 アルカリイオン水は健康によいとか、飲むと病気が治るなどと宣伝されて、それを作る整水器の販売が行われていました(います)。

 アルカリイオン水を飲むと血液がアルカリ性になって健康によいなどと云う人はさすがに少なくなりました。飲んで効くのであれば、まず、胃腸障害に効くはずです。国立大蔵病院の田代先生らの臨床試験結果と云うのが知られています。腹部愁訴を持つ患者を対象に「二重盲検法」により、アルカリイオン水又は通常の浄化水を1日500ml以上、1ヶ月間与えて両者の違いを調べました。その結果によると、アルカリイオン水が通常の浄化水よりも腹部愁訴の改善に幾分効果が認められたということです。

 試験管レベルでの実験としては、九州大学の先生が提唱したアルカリイオン水の活性水素存在説というのがあります。試験管内で、スーパーオキシドラジカルという活性酸素を発生させる実験装置を作り、これにアルカリイオン水を加えたところ、活性酸素が完全に消滅したというものです。

 すなわち、活性水素(原子状の水素)が活性酸素と結びついたという主張がなされています。しかし原子状水素がアルカリイオン水中に存在する可能性は全くありません。電気分解の際に電極付近で H+ → H のように、原子状の水素が発生したとしても、それは直ちに 2H → H2 のように水素分子になると考えられるからです。

【活性酸素(active oxygen): 活性酸素とは次のものを一括した概念です。
・ スーパーオキシドアニオン(superoxide anion) (O2- , ・O2-)
・ ヒドロキシル基(hydroxyl radical) (・OH)
・ 一重項酸素(singlet oxygen) (1O2;酸素分子(二酸素)ではない)
・ 過酸化水素(hydrogen peroxide) (H2O2) 】

 さて、上記のようなアルカリイオン水は、腹部愁訴に若干有効という結果は出ていますが、要するに弱い炭酸水のようなものですから、胃酸を調節しようするならばそのための薬を飲んだ方がよいでしょう。また、カルシウム分の補給という意味で考えると水道水の2倍程度しかありません。また、アノードにできる酸性水も殺菌力が期待できるとは考えられません。私達はアルカリ性という言葉に何か期待を抱き過ぎているのではないでしょうか。


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