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伊藤教授の土質力学講座
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第3章 土の透水性と毛管現象
3.4 流 線 網
地盤やア−スダムの堤体中の水の流れを調べ、透水量および浸透水圧を計
算するのに流線網の図を描く方法がある。 流線網は、流線およびこれと直交
する等ポテンシャル線の2組の曲線群から成る(図−3.12参照)。


流線は水の分子が移動する経路、すなわち流れを表わし、等ポテンシャル
線は流線上において水頭の等しい点をつらねた線、すなわち等圧線を示
している。
流線網を描くには、通常、次の3つの方法が考えられる。
(1)数学的に解く方法−−方程式を作り、これに適当な境界条件を与えて
解く方法があるが、一般に実用的でない。
(2)模型実験で求める方法−−砂模型の透水試験、あるいは電気的相似を
利用した模型実験などによって求める方法である。他の方法に比較し
て多少費用は増すが、よく用いられている(図−3.13(a)、(b)
参照)。
(3)図解法−−既知の多くの流線網を参考にして、流線網の有する特性に
したがってフリ−ハンドで描く方法である。簡単でかつ応用性に富む
ため、広く用いられている。
ここでは、特に図解法について詳しく説明する。

 

3.4.1 等方性の土の流線網図解法
この方法は、代表的ないくつかの流線網を参考にして、それらを組み合わ
せながら、大づかみの第一試案を描き、ついで境界条件に合わせつつ、かつ、
次のような規則を守って、最終的に正しい流線網を作り上げる。
 
(1)相隣る2流線間の流量は、常に等しくなるよう流線間隔を定める。
(2)相隣る2つの等ポテンシャル線間の水頭損失が等しくなるよう、その
間隔を定める。
(3)流線と等ポテンシャル線とは互いに直交させる。すなわち、2流線と
2本のポテンシャル線とに囲まれる図形は、ほぼ正方形に等しくする。
(4)境界条件を熟知すること。たとえば図−3.12おいて
ab、 cd :等ポテンシャル線
b'd'、ac:流線
であるから、流線は地盤への流入部および地盤からの流出では次盤面
と直交する。
(5)図解法は、何回か繰り返し手直しを行なって、粗図(流線4~5本程
度)→精密図へと進み、妥当な流線網に仕上げる。
(6)代表的な流線網の作図を数多く練習し、かつ習得する。次に参考のた
め、代表的な流線網の例を二、三あげる(図−3.14)。
 

 
 

 

3.4.2 成層土(kh≠kv)の流線網図解法
(1)実際の断面の、水平方向縮尺を√kv/√kh倍して、断面を変形する
(図−3.15(a)、(b)参照)。
(2)変形断面に対し、3.4.1 等方性の土の流線網図解法と、全く同じ方法
で流線網の作図をする。(図−3.15(c)参照)。
(3)出来上がった流線網図の、水平方向縮尺を√kv/√kh倍して、実際
断面に戻したものが正しい流線網である。(図−3.15(d)参照)。
(4)成層土の流線網は、予想されるkh/kvの最大値と最小値の両方につ
いて作製し、常にその危険側をとって検討しておくべきである。
 

 

3.4.3 堤体浸潤線の図解法
堤体の流線を描くには、まず、その浸潤線(頂部流線)を決めなければな
らない。浸潤線が決まれば、これを一つの流線と考え、これに平行に各流線
および、これに垂直に等ポテンシャル線を描き、堤体の流線網が図解される
ことになる。
この浸潤線を決めるには、まず最初に基本放物線を描き、これに上流補正
および下流補正を施して、最終的な浸潤線とする。
(1)基本放物線−−排水面と不透水面の境界点Fを焦点とし、Fより上流
側にx軸、鉛直上方にy軸をとると(図−3.16(a)、(b)参照)。
放物線定数

 
ここに、d:F点よりA点までの水平距離(m)
ht:上流と下流との間の水位差(m)
放物線の上端Aは近似的に
AB=0.3・EB
B:上流側のり面の水際点
EB:Bより上流側のり尻までの水平距離
で与えられる。
基本放物線は、(3.12) 式を用いて(3.13) 式で表わされる。



 
(2)上流側の補正−−浸潤線はBDに垂直に流入するから、B点から上流
のり面に対し直角に浸潤線は始まり、基本放物線に接するように、なめらか
に結ぶ。
(3)下流側の補正−−実際の浸潤線と排水面との交点Gから、基本放物線
の交点Cまでの距離CGは、排水面と不透水面との交角α(α>30゜)の関数
として、図−3.17で求められる。 またα<30゜ の場合は、図−3.1
7では求められないから(3.14)式で計算する。
 


 

3.5 浸透水量と浸透水圧
透水係数や、流線網が決まれば、土の中を流れる水量および流れの方向に
沿って土に働く浸透水圧は、次のようにして求められる。

3.5.1 浸透水量
堤体や基礎地盤内の浸透水量を求めるには、図−3.18のような流線網
を参照して

 


 

 


図−3.19のように、堤体が水平な不透水基盤の上にそのまま築造され
た、比較的簡単な場合は、前述のごとく((3.17)式~(3.20)式)、基本放
物線の形から、浸透水量を計算することができる。しかし、しゃ水壁を持つ
ア−スダムとか、安全のため、のり先防護のフィルタ−を備えた堤体では、
このように簡単ではなく、基礎地盤の場合と同じく、浸潤線にしたがう流線
網を描き、(3.15)式および(3.16)式によって浸透水量を計算する。


3.5.2 浸透水圧
図−3.18の流線網に斜線を施して示したような、水が左から右へ流れ
ているときの土の微小立方体(図−3.20(b)参照)に加わる力、およ
びその向きを考えてみよう。単位体積当り次のようなものが作用する。
 

図−3.21を参照して
 



 
これらの力をベクトルで示すと、図−3.20(a)のごとくなる。
またこの場合、土粒子相互の間に実際に働く力を有効応力(重力から中立
応力を引いた力)といい、前述の記号を用いて、(3.24)式で示される。
 


3.5.3 クイックサンド現象
水の流れが上向きになる場合には、浸透水圧の向きも上向きに働く。浸
透水圧が土の有効応力より大きくなるときを考えると、ちょうど力の向きは
反対であるから、有効応力は0となるのみならず、土(特に砂質土に多い)
は水とともに噴出することになる。この現象は、一般にボイリングと呼ばれ
るが、特に砂質土にしばしば起こることから、クイックサンド現象ともいわ
れる(図−3.22)。
 

 
いま図−3.23(a)のAB面において、上向きの浸透水圧と飽和砂の自
重とのつり合いを考えると、(3.25式)のようになる。


この式より、クイックサンド現象の危険のあることがわかる。(3.25)式の等
号の場合の動水こう配 ic(=h/L)を限界動水こう配といい、図−3.
23(b)にみるように、砂を浸透して出てくる水の流量が急激に増加する。
もちろん、このとき砂も噴出する。
いま砂の比重Gs=2.65、間隙比 をe=0.65とすると、(3.25)式は
 

となり、動水こう配=1のとき、すなわち図−3.23(a)で、砂厚(L)
とそれより上の水頭(h)と同じ値となると、クイックサンドの危険がある
ことが知られる。

3.5.4 防護フィルタ−
クイックサンド現象やボイリングを防ぐ方法の一つとして、図−3.24
のような押え盛土をすることがある。この押え盛土は、防護フィルタ−と呼
ばれ下から浸透する水はよく通すけれど、それに伴って動こうとする土砂は
押えておくような粒度構成でなければならない。
 

 
このフィルタ−砂は排水管や井戸の壁など、集水を目的とする装置にも応
用されるもので、これらの目的を満足せしめるためには、(3.26)~(3.28)式
の条件に適合することが必要である。
 


3.5.5 ダムのクリ−プ比
透水性基層の上に築造路(L)を長くすればよいわけで、パイピイングを生ずることなしに上げる
ことのできる水位を(hcr)としたとき、これらの比をクリ−プ比という。
 

Lを長くするには、一般に図−3.26のように、しゃ水矢板を打つことが
行なわれる。しゃ水矢板の打込み深さは(3.30)式で与えられる。
 



一般には、簡易式としてkh/kv=3の場合の(3.31)式を用いることもあ
る。


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