3.2 余部鉄橋とインドの鉄塔
皆さんは、余部鉄橋をご存知だろうか。私もまだ、現物を見たことがないのだが、今から20年ぐらい前の左官関係の本に、海辺にある鋼構造物でありながら良く維持されている例として、この鉄橋が紹介されていた。この鉄橋は、兵庫県城崎郡香住町にある山陰本線の鉄道橋で、1986年暮れには日本海からの強風に煽られ、鉄橋上から機関車と客車が転落、下にあった蟹加工場や民家などを直撃し、多数の死傷者を出した所でもある。
この鉄橋は、山陰本線建設の際の最大の難工事として知られ、2年の歳月と33万余円という当時としてはたいへんな金額を投じて、1912年に完成している。下の写真は、民宿旅館川戸屋のホームページから引用させていただいた。この余部鉄橋は、日本海のすぐそばにありながら、90年の歳月を経ても立派に維持されているという。鉄道関係者のメンテナ
ンスの賜物であろう。逆にいうとメンテナンスし易い構造に設計されていたのかも知れない。これがコンクリート橋であったらどうだったであろうか。鋼構造物であればこそ、定期的な塗り替えにより、鋼材を塩分から保護しておくことも可能だったであろうが、コンクリート橋では、コンクリート表面に塗装しても、服の上から痒い所を掻くようなもので、どれだけの効果が期待できただろうか。
インドのニューデリー南部には、チャンドラの鉄塔と呼ばれる直径40cm、高さ10mの塗装されていない鉄塔があり、1600年も屋外に暴露されているのに、錆びが進んでいないという。鉄自身には特別な成分は何ら含まれておらず、雨が少なく空気が乾燥しているために、鉄がそのまま放置されていても錆びが進まないらしい。この塔が、鉄筋コンクリートだったとしたら、1600年も健全な状態を維持できただろうか。コンクリートは、からからに乾いた条件下ではたちまち中性化してしまうだろう。それでも、屋内のコンクリートと同様に鉄筋はすぐには錆びてこないかもしれない。しかし、鉄筋を覆っているコンクリートは多孔質材料であり、毛細管孔隙の中には蒸発しない水分が残留している。雨が少ないとはいえ、降った雨はコンクリートの細孔内に入り込む。長い年月の間には、むき出しの鉄塔と違って錆びが進んでしまったのではないだろうか。
『コンクリート内に埋め込まれた鉄筋は、コンクリートのアルカリ性によって不動態皮膜が形成され、半永久的な寿命を持つ』と言われてきた。しかし、本当はむき出しの鉄に比べ、その維持管理は大変難しいものになってしまっているのが現状である。
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