■私のコンクリート補修物語
第02回:中性化その2 堀 孝廣

住宅公団では、高度成長期に良質な勤労者住宅を大量に建設していた。これは、東京オリンピックが開かれる少し前より始まった。筆者が以前住んでいた北習志野周辺にも、前原、高根など大規模団地がぞくぞくと建設された。

それから約20年が経過し、軒裏、パラペット、外壁などからコンクリートが剥がれ落ちる事故があちこちで起きていた。 住宅公団では、これらの原因について詳細に調査し、これらの原因の大半が施工不良によるかぶり不足にあることを明らかにした。

しかしそれと同時に、コンクリートの中性化が予想以上に進んでいることが明らかとなった。 コンクリートの中性化は、以前から白山式、岸谷式などが提唱されていた。
これらの式では、中性化深さは、時間のルートにある係数をかけた形で表されている。

例えば、
X= K・√t ここでXは中性化深さ、tは時間である。
係数Kは、水セメント比、セメントの種類などにより決まる係数である。
書き直すと
t=A・X2 係数Aは係数Kが変換されたものである。
一般的には、岸谷式のw/c=0.6 普通ポルトランドセメント使用の場合の次 式が良く使われる。
t=7.2・X2 tは年数、Xはcmである。

当時建築物の壁、柱、梁のかぶり深さは、3cmであることが多かったが、これは通常鉄筋の安全率が2倍になっているものとみなし、構造物が火災に遭遇した時に、鉄筋の降伏点が1/2となるのはおよそ600℃であるので、火災時間が1~2時間とみて鉄筋が600℃になるのを防ぐ、最低限必要なかぶり深さとして定められたものである。

上記岸谷式によれば、3cm中性化するのに65年かかることを表している。 税法上の予定寿命は、鉄筋位置のコンクリートが中性化するまでの時間から、事務所60年、民間住宅65年、公営住宅70年とされていた。

ところが調査してみると、1mm/年のスピードで中性化している物件が多く見つかったのである。これでは、30代でやっと手に入れたマンションが、定年を迎える頃には寿命がきていたということになり兼ねない。 そこで、中性化に対する何らかの対策を講じなければいけないということで、住宅公団の中に中性化委員会なるものが設置されたのである。

さてこの委員会では、中性化に関する文献調査、中性化の進行が岸谷式と乖離してきている原因調査、中性化を抑制するための方策の検討、中性化してしまった構造物の補修方法の検討などが行われた。

中性化の進行が早まっている原因として、

  • 高度成長期に大量にコンクリートを打設する必要に迫られ、ポンプ打ち工 法が普及し安直に水比の高いコンクリートが打設されたこと
  • 型枠が早期に脱型され初期養生が充分なされなくなったこと
  • 二次製品が普及してきたこと、その養生温度が過激に行われていること
  • 地球規模での炭酸ガス濃度の増大
等々が議論された。 とにかく早く効率的にコンクリートを打とうとすると、中性化 は早くなるようであった。


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