■亀の子コンクリート考
第三十七回:即脱と高流動化 小林 映章

コンクリート製品を作り始めた初期は、全く流動性のない硬練りコンクリートを型枠に投入して付き固めていたが、各種の振動機が開発されるに従って、流動性のあるコンクリートを流し込み振動を掛けて締め固めるようになった。

現在は何処でも振動締め固めが行われているが、振動機の騒音が邪魔になるということで、さらに流動性の高い高流動コンクリートを作る方向で高流動用混和剤が開発されている。高流動コンクリートを使用することは作業性の点からも、作業場から騒音を除くという環境上の問題からも、これからのコンクリート製品の進む方向であろう。

さて、高流動の流れとは別に、超硬練りのコンクリートを型枠に投入し、加圧振動締め固めを行い、直ちに型枠を取り外す即時脱型(即脱)コンクリートの製造法が依然として続いている。これは型枠に要する費用が節約できる、養生時間が短いので一日に何サイクルも製造できるなどのメリットがあるからで、製造原価の低減の観点から衰えを知らない。即脱製品は、空洞ブロックのようなコンクリート製品としては比較的小型・単純で低品質のものに多く採用されているが、近年は大型で複雑なものにも適用しようという機運があるように聞いている。

即脱製品は原価を低く抑えるために採用されているわけであるから、使用目的に合致すれば表面に少しくらい傷があろうが、汚れがあろうがかまわないはずであるが、日本ではそれが許されず、さらに表面を化粧することが多い。こうなると即脱の意義が大分薄れてくる。欧米ではさらに表面を化粧するというようなことはないそうであるから、これは文化の違いと考えざるを得ない。文化の違いと云えば最近面白い記事を新聞で読んだ。

東大名誉教授で、科学史の渡辺正雄先生が次のような記事を新聞に寄せておられた。「科学とは、西洋の思想・文化、具体的にはキリスト教的世界観が生み出したものです。この世界を神の被造物とみて、自然を神のみわざを読み取ることができる『第二の聖書』と信じ、探求を積み重ねることで科学が誕生し、発展してきた。…………… 日本は明治以後、西洋からの科学の導入にあたり、技術や実用面だけを重視し、科学を生んだ精神や文化への理解をなおざりにした。…………… 」

技術や実用面だけを重視すると、即脱製品の表面を化粧するようなことはしないように思えるが、実は内部の欠陥を化粧で覆い隠すもので、実用面を実利面と置き換えてみると日本と西欧の文化の違いがよく判るような気がする。いずれにしても即脱を採用するならそれが100%活きるような対処の仕方が重要ではなかろうか。流動化が進んでも即脱がなお衰えを見せないのはそれなりの理由があるはずである。

ところで、これだけ混和剤の技術も進んできたのであるから、即脱と流動化の両者を満足するようなコンクリート製品技術はないものであろうか。混和剤技術、コンクリートの締め固め技術、養生技術といったようなものを総合してそのような従来にない技術が日本から生まれたら愉快である。次回ももう少し即脱について考えてみたい。


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