■亀の子コンクリート考
第二十六回:結合力と強さは別 小林 映章

前回に続いて、物の強さに関係した話題を取り上げてみたい。

物質の強度とは何だろう。その源をたどると、物質を構成している原子の結合力にあることは、理科の授業で教わったところである。物質を構成している原子の種類(元素)が分かると、その結合の強さを理論的に推定することが可能である。しかし実際にはそう簡単にはいかない。構造が簡単な有機物でも、炭素、水素、酸素などの元素からなる分子が集まって一つの物資を構成しており、物質の内部結合力は分子と分子の間に働く力で決められる。分子間の力となると簡単に計算することはできない。構成原子の種類が多く、分子を形成しない無機物になるともっと複雑になる。無機物はガラスのように原子の配列が定まらないものから、結晶のようにきちんと定まったもの、さらにそれらが複雑に集合したものからなり、そこに働く相互作用の大きさを正確に計算することは不可能である。コンクリートのようにさらに種類の違う物質が多数集まって出来上がった構造体の内部の結合力は千差万別で知り得ようがない。

実際の物の強さは、ある仮定のもとに理論的に予測したものとは異なりかなり低いことは大方の人の常識となっている。例えば接着剤で何かを貼り合わせたときの接着の強さは、理論的に予測したものと比べるとケタ違いに小さい。我々は、接着力(adhesive force)を測定するという場合、接着した部分を破壊してみて、その破壊に要する力を測定している。すなわち、接着力とは接着剤と被着体の界面での結合力であるが、通常測定されている接着力とは結合体を破壊する強さ「接着強さ(bond strength)」である。接着に限らず、我々は物の結合している強さを直接測定することはできず、破壊するのに要する力を測定して、その物質を構成している組織の内部結合の強さを間接的に評価している。プラスチックであれば、その物をちぎれるまで引き伸ばすのに要する力を測定するとか、引き裂くのに要する力を測定するなどの方法を採用している。

コンクリート構造物の強さは、圧縮強度、曲げ強度あるいは引張り強度といった、コンクリートに圧縮、曲げ、引張りなどの力を加えて破壊したときの大きさで表している。破壊に対する抵抗力によって強さを評価するのであるから、破壊のし方が極めて重要である。有機物であれ、無機物であれ、破壊力を評価するには、慎重に作製した供試体を用いることが多い。しかし、物の崩壊が問題になるのは、多くの場合こうした供試体あるいは理論式では予測できない状態で起きている。コンクリート構造物で言えば、本来守るべき示方書あるいは指針に従った施工を行わなかったとか、材料に本質的な欠陥があったとか、あるいは長期にわたる化学的な変化が破壊につながったとかいった場合である。このような場合には当然であるが、数式で予測した構造物の強さとかけ離れたところで破壊が生じてしまう。

物質の本当の結合力を知ることは実際上は困難である。どのような強い材料を用いても予測できない破壊が生じる可能性があることを常に念頭においておく必要がある。物の結合力と強さは別物である。


前のページへ目次のページへ次のページへ