先にみたように、コンクリート(セメントを使用したセメントコンクリート)は圧縮強度は大きいが、それ以外の物理的、化学的特性は優れているとはいえない。したがって、専ら耐圧材として利用されている。この点を改善するために鋼筋を入れた鉄筋コンクリートが普遍的に利用されている。しかし鋼はコンクリート内部ではアルカリ環境によって保護されているが、空気や水に曝される場所では錆びやすく、防錆処理が欠かせない。これに対してプラスチックは機械的特性において鋼には及ばないが、化学的特性が優れているため、鉄筋が錆びやすいような部分ではプラスチック繊維を適当なマトリックスで包んだ筋材などが使えないだろうかということを前回述べた。しかしこのような材料を一般に用いるような状態にはなっておらず、現実は、セメントと有機ポリマーを混合してバインダーとして用いるポリマーセメントコンクリーが実用化されている。
コンクリートに鉄筋を補強のために入れることは、我々ヒトをはじめとする高等動物が、非常に軟らかい細胞でできた肉体を丈夫な骨で支えているのに類似している。同様にしてコンクリートにプラスチック材を筋材として入れることも出来そうなことのように思われる。実際筆者の子供の頃に木筋コンクリートという言葉を聞いたような気がする。しかしながら、無機物のコンクリートに有機物を混ぜて強度を増そうという発想は、例えば、硬軟逆にはなるが、ばらばらに砕いた骨を細胞の中に混ぜて軟らかい肉体を補強しようといった発想に類似し、簡単には思いつかないし、実に素晴らしい発想だと思う。
正確には覚えていないが、万里の長城のレンガの接着に澱粉糊のようなものを練り込んだ漆喰が使用されているとのことであるが、そのような材料を使った構造物が全く損傷を受けず現在に存続しているのをみると、先人の知恵には驚嘆せざるを得ない。いまのポリマーセメントコンクリートに先立つものとして漆喰があるのだろうが、漆喰は石灰などの無機物に多糖類とたんぱく質が主成分の「ふのり」を混ぜ、水を加えて練ったものであるから、ポリマーセメントコンクリートの手本はかなり古いところにあったと言える。
石灰やセメントに天然の糊を混ぜて使う発想は、本来それを使って何かを接着させようとか、それを何かに付着させようといったところから生まれたものであろうが、その接着力が内部の構成物質の結合にも役立ってその構造物自体の強度も増すのは興味あることである。有機物は弱いものであるから、それを無機の構造物中に添加するとその強度を低下させてしまうといった考えは素人考えであろう。
ところで多糖類やたんぱく質からなる糊は本来水溶性であるから、水で練り混ぜる漆喰やセメントコンクリートに混合するのは妥当であるが、現在セメントコンクリートの補強に使用されているポリマーの多くは疎水性であって本来コンクリートには馴染まない。そのためにポリマー本来の性能を活かすためにいろいろな工夫がなされ、また問題も含んでいるように思われる。これについては次回に触れてみたい。
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