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水の話
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■水の話 〜化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!〜
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4章 水の係わる反応 小林 映章

4.2 収着

(1) 収着とは
 固体・気体界面や固体・液体界面に気体分子や溶質が吸着されるとき、固体内部への吸着質の吸収を伴うことがあります。吸着と吸収が同時に起きる現象を収着と云います。例えば、よく知られている活性炭やシリカゲルの多孔性固体の細孔内には吸着質が収着されて気相中や溶液内に比べてその濃度が大きくなります。

 コンクリート構造物でも、高分子固体でも、これが気体と接しているときには通常吸着ではなく、収着が起きています。

(2) 収着に関係した用語
 最初に収着に関係した用語を整理しておきます。

 気体と固体の系を考えたとき、両者の界面で気体濃度が気相中よりも高くなる現象を吸着(adsorption)と呼び、固体を吸着媒(adsorbent)、吸着している気体分子を吸着物あるいは吸着質(adsorbate)と云います。吸着した気体が固体表面層を通り抜けて内部に入り込んでいく現象を吸収(absorption)と云います。両者をまとめて収着(sorption)と呼びます。収着という用語に対応して、収着媒(sorbent)、収着物あるいは収着質(sorbate)という用語が使われます。逆に低分子が固体中から気相へ出ていく過程は脱着(desorption)と云います。(液体と固体の系でも収着に関する呼び方は変わりません。)

 ところで、気体と云う場合、ガス(gas)と蒸気(vapor)があります。測定温度、圧力で、分子が安定に存在できる状態が気体状態にあるものをガスと呼び、液体状態にあるものを蒸気と呼びます。

 水の収着現象においては、気体が水蒸気の場合は吸湿(moisture sorption)、液体水の侵入は吸水(water sorption)と云います。

(3) 気体の収着挙動
 収着現象を表すのにしばしば収着等温線というグラフが使われます。これは一定温度において、気体の圧力(あるいは溶液の場合には、希薄溶液の濃度)とその気体の収着量の関係を表したものです。収着等温線の基本形を概念的に図21に示しました。

 図21において、縦軸Cは固体(収着媒)単位体積又は単位質量当たりの収着量、横軸Pは収着が平衡状態になったときの気体(収着質)の圧力です。

 気体と固体が熱力学的理想系である場合には、収着等温線は直線(1)のようになります。このC-P直線関係をヘンリーの法則(Henry's law)と呼びます。収着媒と収着質の間の相互作用が非常に小さいものはヘンリーの法則に従います。多くの固体に対するヘリウム、アルゴン等の不活性気体分子の収着がこれに相当します。

 気体と固体が非理想系である場合には、C-P関係は(2)又は(3)のようにP軸に対して凹又は凸の曲線になります。収着質と収着媒中の吸着場との間に強い相互作用があるとき、等温線は曲線(2)の形となります。さらに、最初Pが小さいところでは(2)の形であり、Pが増加するに伴って変曲点を経て(3)の形になる収着等温線も多くみられます。水蒸気とセルロース誘導体やタンパク質、多くの無機固体との系の等温線がこの形になります(図22)。

 ここで収着に関する熱力学についてごく簡単に触れておきます。

 収着は、収着質・固体系で、気相中を飛び回っていた収着質が固体表面および固体内部に捕らえられてその運動の自由度が小さくなる過程ですから、エントロピーは必ず減少します。すなわち、収着に伴う系のエントロピー変化ΔSは負になります。また、定温定圧における任意の自発的変化の過程では、(dG)T,P < 0(Gはギブスエネルギー)となりますから、収着がかなりの程度起こったときには、系のギブスエルギーの変化ΔGは負であるべきですから、熱力学の関係式

ΔG = ΔH + TΔS

によって、エンタルピーの変化ΔHは負でなければなりません。すなわち、収着は発熱反応となります。

【反応熱(heat of reaction):化学反応に伴って発生又は吸収する熱を云う。反応が定温定圧条件で進行するとき、反応物質系の内部エネルギーの減少量に等しく、定温定圧ならエンタルピーの減少量に等しい。反応熱が正(ΔH < 0)の反応を発熱反応、逆の反応を吸熱反応と云う。】

(4) 水の高分子への収着
 水の収着のうち、実用的にはあるいは日常生活では、高分子への収着が非常に重要です。現在では水を保持するにも、水の侵入を防ぐにも高分子を用いることが多くなっています。ここでは実用的な面から水の高分子への収着を眺めることにします。

 高分子材料は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)、ポリエチレン、ポリスチレン等のように、水の収着が小さく、水分を絶縁するために使用されるものが多数ありますが、逆に水の収着が大きく、吸湿(水)材、保水材として使用されるものも多数合成されています。

 表27には古くから利用されている高分子の吸水性を高分子便覧から抜き出して示しました。

 親水性に極めて優れたポリビニルアルコールでは自重の30%を超える水を吸収しますが、その他は数%以下かほとんど吸収しません。

 上記のような水を吸収しにくい高分子はその性質を活かして広く利用されていますが、繊維などとして用いるときにはその疎水性が欠点となります。そのため吸湿性、吸収性に優れた高分子が開発されてきました。

(吸湿性高分子)
 衣料材料としてよく使われている繊維には、アミド結合─CONH─、エステル結合 ─COO─、シアノ基─CN などの親水性官能基が含まれています。しかし繊維形成の際にこれらの官能基は内部に隠れる傾向をもっているため、繊維の表面には表面エネルギーを低くする炭化水素部分が現れます。したがって、合成繊維表面は疎水性が大きくなり、水や水蒸気の吸着性能が劣ったものとなります。

 このため繊維表面を親水性にして吸湿性を高める方法がいろいろと考えられてきました。現在では繊維表面の親水性を著しく高めることができるようになっています。

 しかし一方で、表面のみの吸水能力を高めると、ときによってべたついた感触を与えることがあり、好ましくありません。そこで繊維の表面だけでなく、全体の吸湿性を高める研究が進められてきました。例えば、通常のナイロンは表27に示したように、1.5%程度の吸水率ですが、このナイロン繊維の内部に親水性化合物を導入することによって吸湿性を高め、相対湿度100%のとき吸湿率(吸水率)17%を超えるものが開発されています。この値は木綿の吸水率約13%を優に超えています。

 ところで、天然繊維の吸湿性が優れているのは、素材が親水性であるという他に、表面が不規則で毛管現象により吸水能力が高くなっているということがあります。そこで、合成繊維表面に亀裂を入れたり、断面を円形ではなくL字型などの異形にしたり、あるいは多孔質化するなどの方法が開発されています。

 また、繊維の吸湿性を高めるだけでなく、吸湿性繊維と疎水性繊維を多層構造にして吸湿した水分を外部に放出する工夫もなされています。すなわち、孔なし透湿材料が開発されています。

 吸湿、放湿性繊維や布の開発は衣服用繊維として重要なだけではなく、最近多くなってきた家屋内装のクロス張り用材料としても非常に重要になっています。

(高吸水性高分子)
 多量の水を吸収する高吸水性高分子は工業分野で注目を集め、医・衛生材料、土木・建築材料、農・園芸材料などとして広く利用されています。このような材料として下記のようなものがあります。

デンプン・ポリアクリロニトリル加水分解物
デンプン・ポリアクリル酸塩架橋物
架橋カルボキシメチルセルロース
酢酸ビニル・アクリル酸メチル共重合体ケン化物
ポリアクリル酸ナトリウム架橋物

 高吸水性高分子の開発では、実用面が先行しており、吸水能力・吸水量が重視されています。自重の1,000倍の水を吸収するものもあります。

(5) 水の多孔質固体への収着
 一般に無機多孔質体には水がよく収着されます。孔内に吸収された水の状態は孔径によってかなり変化することが知られています。孔径が大きいと常態の水で収着していますが、孔径が小さくなると凝縮した形で収着を起こし、物性も常態水と比べて著しく変わったものとなります。

 活性炭やシリカゲルなどの細孔性固体の細孔内には吸着質が吸収され、気相中や溶液内に比べてその濃度が大きくなる、すなわち収着が起きることはよく知られています。半径1〜25nmの中間細孔内では気体は毛管凝縮(毛管現象の一種)を起こして収着されます。

【気体や液体の吸収に利用される中間細孔:
活性炭やシリカゲルの例でみられるように、固体の中間細孔は空気浄化や液体の浄化のための吸収材としてよく利用されます。細孔径が中間細孔の下限を超えると急激に収着質は入り難くなります。
水銀細孔計で測定しますと、水銀注入圧力は中間細孔の下端に近づくと急上昇します。
    細孔半径 10nm …… 700atm
                   2nm …… 3,500atm 】

 このような細孔に収着された水は定温でも凍りにくいことが確認されています。nm(10-9m)オーダーよりも大分大きい径のガラス管内や、1μm(10-6m)程度の小滴の液体水も-41℃付近まで凍りません。勿論これらの過冷却水はいったん凍ると結晶の氷になってしまいます。

 近年家屋内装からじわじわ拡散してくるホルムアルデヒドなどの環境ホルモンが問題になっています。これを防ぐために珪藻土を混ぜ込んだ珪藻壁が話題になっています。珪藻壁は環境ホルモン物質の除去として注目されていますが、長期的にみると、水分の収着・放散による除湿、湿度調節の面から評価されると思います。

 シリカゲルや活性炭で収着性能を発揮するのは孔径がnmオーダーの中間細孔であって、これらの材料では吸収された水分が室温で放置しておいたのでは除去しにくく、これを追い出すには加熱が必要ですが、珪藻土の類の多孔質体では空隙が80〜85%からも分かるように孔径がμmと大きく、収着された水分が室温で湿度の低下に伴って脱着してきます。したがって湿度調節には好適な材料と云えます。

(6) 吸蔵水
 固体内に存在する水で収着水とは異なる水があります。それについて簡単に触れておきます。

 気体や液体分子が一団となって固体中に取り込まれることを吸蔵(occlusion)と呼んでいます。気体が固体の気相酸化還元の際に固体中に閉じこめられる場合や、結晶を生成させるとき母液が結晶中に含まれたりするのがその例です。また沈澱剤を加えて沈澱が析出するとき、共存物が不純物として含まれる現象も吸蔵と云います。

 吸蔵水(occluded water)は固体や沈澱物の内部に吸蔵されている水です。吸蔵水の存在状態には、空洞中に母液として存在するか、空洞内表面に吸着されているか、固溶体となっているかの3通りがあります。吸蔵水は100℃に加熱しても除去することはできません。この点固体孔内に収着されている水と異なります。

(7) 湿度
 湿度は温度と共に古くから私達の日常生活に密接に関係をもった要素として扱われ、近年は広い分野でますます重要視されるようになってきました。

 湿度(humidity)とは「空気中に含まれている水蒸気の量を示す尺度」であるということになっています。湿度関係の専門書では空気ではなく広く気体としていますが、普通は空気中の水蒸気量を示す尺度と考えてよいでしょう。

 それはさておき、湿度の測定でも固体に対する水蒸気の収着現象が利用されています。現在湿度の測定には簡易法から精密法にわたって多数の方法や機器が使用されており、測定原理として8種類以上、測定機器は大別しても30種類近くあります。

 そのうち、収着現象を利用したものは、毛髪湿度計など水蒸気の収脱着により固体が伸縮する性質を利用したものです。湿度計に利用される収着媒には、

毛髪、動物の皮膜、植物繊維、紙、ナイロン

などがあります。最も一般的に利用されているのは毛髪で、昔も今も変わりません。毛髪のようなものは水蒸気の収着量によって伸縮するのをそのまま利用しています。また上記収着媒と水蒸気量によってほとんど伸縮しない材料を貼り合わせて、バイメタル的に、収着媒の伸縮に伴い貼り合わせ材料が「たわむ」のを利用したものもあります。

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