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水の話
■水の話 ~化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!~
2章 いろいろな水 小林 映章

2.1 溶解成分の異なる水

2.1.2 無機塩類溶存水
—無機塩類が溶存すると有益にも害にもなる—
(1)硬水と軟水
 先にも度々触れたように、水には非常にものをよく溶かす性質があり、天然に存在する水は多くの物質を溶かしています。雨は元々は蒸留水ですが、空気中に浮遊する塵埃をはじめ、二酸化炭素や酸化窒素などを溶かしています。また、河川の水は山から流れ出し、下流に下ってくる間に各種の無機塩類や有機物を溶かしてきます。井戸や泉の水も多くのの無機塩類を含んでいます。

 このように私達が一般に利用している水は海水(すなわち塩水)ではなく淡水ですがかなりの無機塩類を含んでいます。私達は、日常使っているやかんの内側や口のあたりに固い石灰状のものが付着しているのに出会いますが、これはよく知られているように、水にカルシウムCaやマグネシウムMgが溶け込んでいるからです。CaやMgはカルシウムイオンCa2+、マグネシウムイオンMg2+といったイオンの形で水中に存在し、同じく水中に溶け込んだ二酸化炭素が水と反応して生じた炭酸水素イオンHCO3-と結合して、水に溶けにくい炭酸カルシウムCaCO3や炭酸マグネシウムMgCO3のような炭酸塩になります。 【空気中のCO2が水に溶け込むと、次のようにHCO3-なります: CO2 + H2O → H2CO3 → 2H+ + HCO3-

(硬水・軟水とは)
 カルシウムイオンやマグネシウムイオンを比較的多量に含む水を硬水(hard water)と云い、それらの濃度が比較的小さい水を軟水(soft water)と云います。

 硬水のうち、含まれている陰イオンが主に炭酸水素イオンの場合、煮沸することでCa2+やMg2+を炭酸塩として沈殿させることができます。このような水を「一時硬水」と云います。陰イオンが塩化物イオンCl-や硫酸イオンSO42-などの場合には煮沸しても沈殿させることができません。このような水を「永久硬水」と云います。

(硬水・軟水の表し方)
 硬水か軟水かを表す尺度として硬度(hardness)が使われます。硬度はカルシウムイオンやマグネシウムイオンをどのくらい含んでいるかを示すものです。硬度には大別してドイツ硬度とアメリカ硬度の2つがあります。

ドイツ硬度:
カルシウムやマグネシウムの量を全て酸化カルシウムCaO量に換算して表します。
水100ml中にCaO 1mgを含むとき1度とし、マグネシウムは、1.4MgO = 1.0CaOとしてCaOに換算します。
通常、20度以上の水を硬水、10度以下の水を軟水と云います。
アメリカ硬度:
カルシウム、マグネシウムの量を炭酸カルシウムCaCO3に換算し、mg/l又はppmで表します(mg/l ≡ ppm)。

ドイツ硬度1度 ≡ アメリカ硬度17.8mg/l になります。

(硬水を軟水にするには)
 硬水はボイラー内部に固い石灰質の湯あか(缶石)を生じて熱伝導率を悪くしたり、石けんの効力を弱めたり(カルシウムイオンやマグネシウムイオンが石けんの脂肪酸塩と反応すると、水に溶けない脂肪酸カルシウムや脂肪酸マグネシウムのような金属石けんになり、石けんの効きを損ないます)、あるいは著しい硬水を飲み続けると肝臓障害を引き起こすことがあります。そこでしばしば硬水を無害な軟水にする処理が行われます。

 一時硬水の場合は煮沸することでかなり軟水にすることができますが、一般的には、あるいは工業的には、イオン交換樹脂や合成ゼオライトなどのイオン交換体の層に硬水を通して水中のカルシウムイオン等を除くイオン交換法が盛んに行われています。


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