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伊藤教授の土質力学講座
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第7章 斜面の安定
土の斜面が破壊して動くとき、その結果はきわめて壮観である。しかし、
人類に与える影響は、はなはだ悲惨なものであることが多い。巨大な地すべ
りは都市・村落を埋め、川をせき止めことさえあり、河川の堤防は水位が高
くなると斜面の崩壊を生じて、その結果、貴重な農地を洪水状態に導き、人
々をその家屋から追い出したりする。また、ア−スダムが破壊すると、その
大きな水の波は渓谷を侵食し、人畜に大きな死傷をもたらし、それらの被害
は、測り知れないものとなる。
土が一様でないこと、破壊の様相が千差万別であること、さらには、地質
工学の助けを借りなければならないなどの理由が相重なって、土の斜面の安
定解析は非常にむずかしい。

7.1 安定解析
移動や破壊に対する土塊の安全を、その安定という。安定は単に土の構造
物の設計・施工において考えるだけでなく、破壊した後の補修のときも考慮
しなければならない。オ−プンカットの斜面・堤防・盛土およびア−スダム
断面の設計は、主として安定解析の考え方にもとづいて行なわれている。一
方、地すべりのような自然地盤の破壊が起こったとき、その原因をつきとめ
て適切な対策を立てたり、また、将来の安全を確保するためにも安定解析が
必要とされる。

7.1.1 土塊の移動の原因
土の斜面の破壊は、すべりの第一段階では、そのままの形で下方に移動す
ることが多い。しかし、すべりの進行に伴って結局は形がゆがみ壊れてしま
う。一般の場合すべりはクラックができたり、ゆるい沈下を生じたりなどし
て予告があり、比較的余裕があるが、ある種のものは、ほとんど警告なしに
突然破壊する。
広い連続した面で、せん断応力が土のせん断強さを越えるようになるとす
べりが起こる。したがって、土体中の任意の一点における破壊が、必ずしも
斜面の不安定ということにはならない。不安定状態というのは、すべりが起
こりうると考えられる面の各点に、せん断破壊が生じたときにのみ生ずる。
数多くある破壊の原因を突き止めることは難しい。しかし、実際には土の強
さを減少させる原因、および土の応力を増加させる原因などのすべてが不安
定に寄与すると推察されるから、土構造物の設計にあたっては、これらを十
分考慮すべきである。安定解析の手引として参考のため表−7.1をあげる。

人命や財産に被害を与えるような破壊が起こった場合には、その原因を確
かめるために、技術者がしばしば呼び出される。多くの場合、同時にたくさ
んの原因が存在するものである。その中から、最終的に一つの原因にしぼる
ことは困難であるのみならず、かえって正しくないとさえ考えられる。なぜ
なら、そのしぼられた一つの原因は、しばしば、破壊地区の土体の運動にセ
ットされた引金にすぎないことが多いからである。すなわち、破壊を起こす
多くの条件が、それだけ十分にそろっていれば、すべりは他の引金でも容易
に起こる可能性があるからである。

7.1.2 安定解析の考え方
安定問題の解析は、一般に仮定した設計の安全率を決めるための試行錯誤
の計算を行う方法である。起こりそうな破壊面を仮定し、ついで、その面に
沿ったせん断抵抗が計算される。破壊面で区切られた土の扇形に働く力が決
まると、その扇形の安全率は、次のように求められる。

理論的には、非常に数多くのすべり面を仮定しうるが、そのうち、最小の
安全率を示す破壊面が実際に起こるすべり面である。しかし、実用上は二、
三のよく選ばれたすべり面の安定解析について得られた、最小の安全率を用
いて十分安全である。

7.1.3 斜面の破壊の型
斜面破壊の最も普通の型は、不安定な斜面において生ずる。多くの場合、
曲面に沿う地すべりのような回転によって破壊が生ずる。大標的なものとし
て図−7.1のような三つの異なった破壊の型がある。そして、このいずれ
の型になるかは土の性質と、傾斜角および斜面の高さによって決まる。

底部破壊は、斜面が比較的ゆるい傾斜で、やわらかい粘着性の土に生ずる。
すべりの先端におけるふくれ上がりは、しばしば、斜面から離れたところに
でき、すべり面は斜面の中点鉛直上にすべり円の中心を持ち、基盤に接して
こわれる。
斜面先破壊は粘着性の土、または見掛けの粘性のある土に起こり、60度以
上の急斜面に生ずることが多く、すべり面が、斜面のり先を通るのが特長で
ある。
斜面内破壊は斜面先破壊の特殊なもので、すべり面は基盤に接して、斜面
を切る。
すべりの型が図−7.1の3種のいずれになるかは、図−7.2を参考に
して判定する。この図表から、53度より急な斜面では、すべて斜面先破壊が
起こることがわかる。53度以下の傾斜角では、nd の値によって3種類の破
壊面が生ずる可能性がある。nd ≧3のとき底部破壊が生ずる。nd =1~
3の値では、その斜面の傾き具合で、底部破壊、斜面先破壊および斜面内破
壊のいずれかが起こり、nd <1では斜面内破壊のみが起こる。
斜面先破壊のすべり円を描くには、すべり円弧の中心の位置を図−7.3
(a)、(b)によって求めれば、ただちに作図することができる。しかし、
底部破壊および斜面内破壊の場合のすべり面は、試行法によって見出さねば
ならない。底部破壊のすべり円は図−7.4(a)において、その中心が斜
面の中点を通る鉛直線上にあり、かつ、すべり面の先端が斜面先から水平距
離nxH の点を通るという条件から求められる。nx の値は図−7.4(b)
によって、いろいろの深さ係数nd 、および斜面傾斜角βに対して求められ
る。斜面内破壊のすべり円は、斜面先破壊の場合の手法を準用すればよい。

土が粘着力だけでなく、内部摩擦角を持つような部分飽和の粘土の安定係
数は、各種の傾斜角について図−7.5から求められる。斜面のり先より上
に、基盤が現われない場合は、すべりは斜面先破壊の型となる。理論上、φ
<3゜ では底部破壊は起こらないとされているからである。

また、テイラ−は、やわらかい粘土からなる斜面について、安定係数の考
え方を用い、まさに、すべりが起こらんとするときの臨界高さHc を(7.3)
式のように求めた。
Hc=Ns・c/γ ・・・・・・・・・(7.3)
ここに、
Ns:安定係数
c:土の粘着力(t/㎡)
γ:土の単位重量(t/m3
そして、このとき斜面の安全率Fs は、次のように与えられる。
Fs=c・Ns/H・γ ・・・・・・・・(7.4)
ここに、
H:斜面の高さ(m)
c:土の粘着力(t/㎡)
γ:土の単位重量(t/m3
Ns:安定係数

7.1.4 実際問題への適用と安全率
斜面の安定を解析するために、数多くの理論的な開発がなされたが、実際
の設計や施工に適用する段になると、これらの理論解析も近似解程度にすぎ
ないことに気が付く。理論と実際との食い違いが起こるのは、主として、次
の三つの理由によるものである。
(1)実際の土の堆積は一様でなく、地盤全体にわたって土の構造物が均一
であることは滅多にない。
(2)土体がすべるとき、有効に働く土のせん断強さを決めることが非常に
難しい。
(3)理論的解析に用いるすべり面は、あくまで、仮定したすべり面にすぎ
ない。
堆積に起因する土の性質の変化は、土質力学のあらゆる問題に関係があり、
誤差を与える大きな原因となっている。しかし、最近は層化斜面における安
定解析の試み(複合すべり面その他)も、かなり盛んになってきたので、そ
れらの成果を参照するとよい。土のせん断強さは、固定した性質ではなく、
季節、地下水位および破壊に伴う変形条件とともに変わるものである。また、
間隙水圧や破壊時の土のこね返しによっても、すべり面に沿う有効せん断強
さは変化するので、理論的な考察では、その強さを正確に決定することは難
しい。しかし、仮定すべり面の選択から生ずる誤差は、安全率の計算には、
それほど大きな影響を与えるものでないことが解析的に明らかにされている。
実際の斜面や堤防が安全のために解析されたとき、それらは、他の土木構
造物に比べ、安全率が比較的小さいことに気が付くであろう。一般の建築構
造物では2.5~3 の安全率が使われるのに対し、堤防などの、容積の大き
い土構造物では、その費用が多額なものとなるため、低い安全率でしか設計
しえない。また一方では、1.0 のようなギリギリの安全率しか持たない多
くの斜面でも、長時間の試練にたえて、安定であることが証明されているの
である。次の表−7.2は、斜面安定の一つの目安を与えるものである。

この安全率は構造物の受ける力、強度の低下および中立応力などが、最も
危険な組合わせになった場合について計算されたものである。普通の状態で
は、ア−スダムは1.5 の安全率を確保したい。しかし、洪水時などに対す
る設計のような、一時的に特別な力の働く状態では、1.1 の安全率でも十
分であろう。

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