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伊藤教授の土質力学講座
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第4章 圧 密
土木建築の構造物や基礎地盤の長期にわたる沈下は、数世紀にもわたって
建設技術者を悩ませ続けてきた。ピサの斜塔は、その不同ちんかのため有名
になったよい例であるし、わが国でも地下水の過剰汲み上げによる東京都江
東区の地盤沈下、ならびに新潟市の地盤沈下などは、いずれも地盤の圧密に
よる沈下現象として著名なものである。
他の弾性的な土木材料と異なって土のような物質は圧縮量が大きく、また
荷重による変形に時間的な要素が複雑に関係するという特性がある。1925年
にテルツァギ−(K.Terzaghi)が土の圧密機構を基本的に解明するまでは、
地盤の沈下は、漠然と構造物荷重によるやわらかい土の圧縮現象として考え
られていた。しかし、土質力学の進歩と採取試料の検討とが進につれて、こ
れらの圧密沈下は、主として土を構成する水と空気の脱出に起因するもので
あることが明らかになり、まず水で飽和した土の圧密解析から問題解決の糸
口が見つけられた。

4.1 土の圧縮と一次元圧密
一般に土は固体である土粒子で骨組を作り、その間隙にガスおよび水を含
んでいることはすでに述べた。これに荷重が加わると容積が減少するが、そ
れに関係があると考えられる三つの要素がある。
(a)間隙中のガスおよび水の圧縮
(b)水およびガスが間隙から脱出するための変形
(c)土粒子の骨組事態の圧縮変形
土に加わる普通の荷重のもとでは、土粒子と間隙中の水は非圧縮性と考え
てもよいから、土が水で完全に飽和していれば、間隙から水が脱出すること
による容積の減少はかなり正確に推定できる。
しかし部分的にしか飽和していない土では、圧縮によってガスが水中に溶
け込むことや、荷重によるガス自体の圧縮率も考慮しなければならないので、
問題はかなり複雑になる。現在のところ、不飽和土の圧密に関する妥当な解
析法はまだ確立されていない。
圧密荷重によって生じた容積変化は、その荷重を取りさると、わずかなが
ら容積の膨張回復があるから、ごく少ない量ではあるが弾性があることにな
る。
しかし一般には、図−4.1に示すように、すべりや転移が生ずることに
よる塑性変形がかなり大きいものと考えられている。したがって、綿毛構造
やハチの巣構造のような、間隙率の大きな接触点が少ない構造では、粒状土
からなる単粒構造のものよりは圧縮性が大である。

また土は、岩石やコンクリ−トのような土木材料二比べ大きな間隙を持って
いるため、普通の大きさの荷重によっても、しばしば著しい容積の減少をき
たし、地盤や構造物の圧密沈下をまねくことがある。土や岩石などの圧縮率
の一例を示すと、表−4.1のごとくである。

一般に基礎地盤上に構造物がのるときの変形は、上下方向にも側面方向に
も生ずるが、図−4.2(a)のように広い範囲にわたって一様な盛土が行
なわれる場合には、側面の変位は鉛直方向の圧力によって拘束されるので、
無視できる程度のものである。これに反し、図−4.2(b)のごとく有限
な幅の荷重がのる場合は、側方へはみ出すので水平方向の変位は無視できな
い。
 

前者は、変位が上下方向のみに生ずる。いわゆる一次元圧密であり、後者
は、三次元圧密といわれるものである。
圧密現象を正しく解明するための三次元圧密の解析理論については、多く
の考え方が提唱されており、まだ定説があるとはいえないので、ここでは主
として一方向にのみ変形の生ずる場合(一次元圧密)について説明すること
にする。
土は水平方向に一様に堆積していると考えられることが少なくないから、
一次元的な考え方は実際問題の適用に当って十分有用なものである。

4.2 圧密の機構と間隙水圧
土の圧密は数多くの現象を含み、それらが複雑に組み合わさっているが、
大きく分けて、間隙水の排出や土粒子の破壊に起因する非可逆的な現象と、
土粒子の弾性変形や電荷反発による主として弾性的な可逆的現象とから構成
されていると考えられる。
このうち、間隙水の排出にともなう間隙水圧の変化は、圧密の進行やその
圧縮量の大きさに深い関係のあることは、前節の記述から推察できるであろ
う。この間隙水圧は、単に圧密現象だけに止まらず、圧密を仲立ちとして土
の強度、斜面の安定ならびに基礎地盤の安定などにも大きな影響を持ってい
るので、とくに詳しく説明する。

4.2.1 間隙水圧と有効応力
図−4.3(a)、(b)ともに、初めはmn線まで、飽和した土を薄く入れ
た容器を示してある。この表面に図(b)のごとく土(単位体積重量が水の2
倍のもの)をhの厚さに入れる。mn以下の土の間隙比は上に荷重がのるた
め減少し、土のせん断抵抗、透水係数などの諸特性は変化する。このため、
この荷重による応力を有効応力と呼んでいる。
 

一方、土の荷重の代わりに、これと同じ重さの水を図(a)のように2hだ
け容器に満たしたとすると、この場合もmn線に加わる圧力は図(b)と同じ
だけ増加するはずである。それにもかかわらず、水の重量による圧力の増加
はmn線以下の土の間隙比や、せん断抵抗などの土の力学的性質には影響を
与えない。
そこで、この水による応力を間隙水圧あるいは中立応力と呼んでいる。
したがって、一般に土に加わる応力σは、有効応力σ'と間隙水圧uとか
ら成っていると考えられる。任意時刻における土の応力は、次のように表現
される。σ=σ'+uw ここに説明した水が静止している場合の間隙水圧の
ほかに、土の中に水の流動をひき起こすような過剰間隙水圧があり(3.5参
照)、ともに土の圧密現象、土のせん断抵抗などに大きな影響を与えている。

4.2.2 間隙水圧の測定
間隙水圧を測定するには、普通、間隙水圧計を用いる。間隙水圧計には開
放型と閉鎖型の2通りあるが、図−4.4に簡単な間隙水圧測定装置の一例
であるマノメ−タ型間隙水圧計(閉鎖型)を示す。
コック1,2を開いて、脱気水をポンプでパイプの中に流入させる。この
際パイプなかの空気は水と一緒に脱気孔から排出させるようにする。次にコ
ック1,2を閉めて、マノメ−タおよびパイプの中に、空気がはいっていな
いことを確認する。
 

この操作は、土中の水分状態を乱さないように、なるべくすみやかに行な
う。マノメ−タのh、hを読み、チップからマノメ−タ零点までの高さを
Hとすると、間隙水圧および過剰間隙水圧は次式から求められる。


4.2.3 圧密の機構
圧密の時間とともに進む割合は、間隙から水が排出される速度によって決
まる。水は土に加えられた外力によって押し出されるので、この外力は土中
の間隙圧を静水圧以上に高め、過剰間隙水圧を作り出す。このような土の圧
密のからくりは、スプリング、ピストンおよびシリンダを組み合わせた模型
によって説明される。
図−4.5(a)のスプリングは、断面積10〓で重さのないピストンを頂部
につけたものである。この状態でスプリングは10cmの長さにある。ピストン
の上に1kgの荷重をのせると(図−4.5(b))、スプリングは8cmの長さ
に圧縮される強さのものとする。そして圧縮は荷重が加わると瞬間的に起こ
る。このようなピストンとスプリングを図−4.5(c)のようにぴったりと
はまるシリンダに入れる。シリンダの中は水で満たされているものとする。
スプリングとシリンダ内の水には少しも圧力が加わっていない。
いま図−4.5(d)のように、ピストンの上に1kgのおもりをのせても、
シリンダ内の水が逃げないようにしておけばスプリングは圧縮されない。ス
プリングに重さが少しも加わらない。1kgの重さは、水圧によって支えられ
ているのである。この水圧は過剰間隙水圧と呼ばれ、uw で表わされる。し
たがって、ピストンにおもりをのせた瞬間は、全荷重をPで表わすと
全荷重=(スプリングに加わる荷重)+(過剰間隙水圧) ・・・・(4.1)
t=0 P=σ'+uw
1kg=0+1kg
次に、ピストンについている栓をゆるめたとする。水を排出して、10ccの
量(シリンダ内の全水量の10%)が出切った場合には、スプリングは9cmの
長さに圧縮される。このときスプリングは500gを支え、シリンダ内の水の支
える圧力も500gに減少し、図−4.5(e)に示すように、

t=ti P=σ'i+uwi
1kg=500g+500g
となる。さらに、もう10ccの水がシリンダから排出されると、スプリングは
全荷重1kgを支えることになり、過剰間隙水圧は0になる(図−4.5(f))
。すなわち、
t=∽ P=σ'∽+uw∽
1kg=1kg+0
土の圧密現象は、上に述べたピストン、スプリング模型によく似ている。
土粒子の骨組構造はスプリングで表わされ、水で満たされた間隙はシリンダ
内の空間で表わされる。荷重が土層の上におかけても、圧縮現象が即座に起
こるわけではないから、土粒子の骨組構造が直ちに荷重を支えるには至らず、
間隙内の水がそれを受け持つ(図−4.6(b))。水が抜け出すにつれて土
は圧縮され、土粒子構造は荷重を負担し(図−4.6(c))、最終的には過
剰間隙水圧が0になり、図−4.6は上下に排水層を有する土層に応力が伝
えられる過程を示したものである。


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