■私のコンクリート補修物語
第5部 防錆剤を用いたコンクリート補修 堀 孝廣

5-7 日本海沿岸飛沫帯での施工及び暴露試験

 亜硝酸リチウムの防せい効果に関して、促進試験による実証を進める一方で、鉄筋コンクリートの塩害対策が急務となっている日本海沿岸の道路橋に対して実橋での施工実験、及びコンクリート橋と同一配合の大型試験体による暴露試験を実施することとなった。

5-7-1 道路橋での施工実験
 施工実験の対象となったD橋は、昭和47年に完工している。波打際から数十メートルで、また冬季には融雪材が撒かれるために、10年を待たずして鉄筋の腐食が問題となっていた。昭和57年から3年かけて、上部工の断面修復と防水ライニング工事が行なわれたが、数年にしてライニング材のふくれと下部工における鉄筋腐食が再発した。そこで、平成2年に上部工、下部工において亜硝酸リチウムを用いた防食工法が試験施工される運びとなった。下部工では、5年以上に及ぶ追跡調査が実施されている。





 塩化物イオンの分布については、ここでは省略するが表面に防水ライニング材が施されているので外部からの供給は無く、経時的にコンクリート内部に拡散していくので濃度分布は内部に向かって、なめらかな濃度勾配を描いた。

 107ヶ月経過後の、深さ毎の亜硝酸イオン/塩化物イオンモル比は以下のようになった。


 モル比が初期に設定した0.8を下回っている箇所もあるが、概ね鉄筋が存在する40~60ないし60から80mmの深さにおいて満足する結果が得られた。

 自然電位の測定では、従来工法で施工した部位が徐々に卑に変化していくのに対し、亜硝酸リチウムによる補修を施した箇所では殆どの部位において貴化しており、亜硝酸リチウムの防せい効果が認められる結果となった。

 外観観察では、無処理、および従来工法により施された箇所では、3年以内にひび割れの発生が認められ10年目では大きなひび割れが見られるようになった。一方、亜硝酸リチウムで施工した箇所では、5年目に軽微なひび割れは発生したがその後ひび割れ幅の拡大や、コンクリートの浮きは見られず、10年目でも良好な状態を維持していた。


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