ノスキッド仕上げ研究会
ノスキッド仕上げ研究会
■私のコンクリート補修物語
第4部 防錆剤混和による鉄筋腐食対策 堀 孝廣

 第3部では、少し教科書的に塩化物イオンによるコンクリート内の鉄筋腐食の問題に触れてきた。第4部では、亜硝酸リチウムによるコンクリート補修に取組む伏線となった、コンクリート用防せい剤(混和剤)の多量添加方式ついて、『お話し』を進めよう。

4-1 塩化物総量規制と防せい剤

 1986年の建設省住宅局建築指導課長通達による塩化物総量規制では、原則コンクリート内の1m中の塩化物イオン量を0.3kg以下とし、やむを得ず0.3kgを超え0.6kg以下の場合には、以下の対策を講ずることが義務付けられた。

      水セメント比が、55パーセント以下であること。
AE減水剤が使用され、かつ、スランプが18cm以下(流動化コンクリートの場合においては、ベースコンクリートのスランプが15cm以下、流動化後のコンクリートのスランプが21cm以下)であること。
適切な防せい剤が使用されていること。
床の下端の鉄筋のかぶり厚さが3cm以上であること

 ハの項で防せい剤の使用が取り入れられたが、この塩化物総量規制が実施されて以降、海砂は洗って使うのが当り前という流れの中で、防せい剤は沖縄や離島など限られた地域での使用に限定されていった。しかしその後の山陽新幹線橋脚の調査などによって、実際には大量の海砂が充分に洗われないまま、コンクリート中に持込まれたことが明らかとなった。かぶりの厚い土木のコンクリートでは、塩が多少入ろうが中の鉄筋はさびないという思い込みが、骨材業者からゼネコンにまで蔓延していたように思える。このつけが、いま『重い遺産』として、コンクリート技術者の肩にのしかかってきている。


4-2 アメリカにおける防錆剤の使用

 日本国内のコンクリート用防せい剤は、塩化物イオン総量規制以降て年々減少の道をたどることになったが、一方アメリカにおいては融雪剤対策として、防せい剤の使用量がうなぎ登りに増えていた。当時、社内で亜硝酸カルシウムの販売を担当していたN氏が、アメリカのW.R.GRACE社を訪問し、アメリカにおける防せい剤の使用方法についての情報を入手してきた。日産化学工業株式会社とW.R.GRACE社とでは亜硝酸カルシウムの用途特許と製造特許をクロスライセンスしていたので、お互いに緊密な情報交換ができる立場にあった。

 N氏がもたらしたアメリカにおける防せい剤は、日本のように海砂使用対策としてではなく、凍結防止剤として道路に大量に撒かれる岩塩対策として使用されていた。凍結防止剤として、道路に散布使用される塩化物イオン量は、海砂からもたらされる塩化物イオン量に比べて膨大であり、使用される防せい剤の量も日本では概ね3リットル/mが標準であるのに対し、20〜30リットル/mと一桁多い量が使用されていた。

 W.R.GRACE社は70年代後半に、日産化学から亜硝酸カルシウム水溶液の製造方法を導入して製造を開始し、80年代後半には既に日本の使用量の数倍に相当する防せい剤を販売していた。W.R.GRACE社の防せい剤の商品名は、DCI(ダレクッスコロージョンインヒビター)と気温の高い所での凝結を遅延させる機能を持つたDCI-Sの2種類であった。ちなみに亜硝酸カルシウムには凝結促進作用があり、現在寒冷下で硬化促進剤、或いは耐寒剤原料として幅広く使われている。

 アメリカでは、防せい剤使用が融雪剤の撒かれる橋梁を主なる対象としていたので、アメリカ連邦道路局(FHWA)のY.P.Virmani等を中心として、1980年から大掛かりな実証実験が行なわれた。この結果は、日本にも紹介されコンクリート工学1986年8月号にもその一部が紹介されている。

 この大規模実験は、融雪剤散布をシュミレーションしてスラブを上下2段に打ち分け、塩化物イオンは上段スラブにのみ添加し、上スラブ中の鉄筋と下段のスラブ中の鉄筋を積算電流計を介して接続し、巨大なマクロセルを形成させるものであった。腐食量は、流れる電流によって測定したた。防せい剤は上下両スラブに添加されて、防せい剤の有無による鉄筋腐食抑制効果が検討された。

 2年間の暴露実験から、亜硝酸イオンと塩化物イオンのモル比(イオンの個数の比率)が0.56以上で顕著な腐食抑制効果が観察され、リコメンデーションとして鉄筋位置で侵入してくる塩化物イオンに対して亜硝酸イオンをモル比(NO2/Cl)0.8以上となるように、添加しておけば、無添加のものの1/10以下に腐食を抑制できるとしている。

 以下にその詳細を記す。

 Y.P.Virmani等は、更に実験を続け7年後の暴露試験の結果を発表している。結果をまとめた表は以下のようなものである。

 少しわかりにくいので、以下の図、表に要約した。

 この表から、単位水量が209kg/mという低品質のコンクリートであっても、防せい剤29.8リットル/mした場合に、鉄筋位置におけるモル比が0.9以上であれば、鉄筋の腐食量は無添加の1/10以下に抑制できることがわかる。また、モル比が0.8以下になった場合においても腐食を無添加コンクリート中の鉄筋の半分以下に抑制している。

 Y.P.Virmaniはこの結果を受けて、添加すべき防せい剤の量を鉄筋位置でモル比(NO2/Cl)1.0以上となるように、リコメンデーションを変更している。

 他にも多数の検証実験が行なわれ、北米の各州でPC中に防せい剤の使用がスペックインしている。以下に少し古いが、アメリカ各州のスペック状況を示す。


前のページへ目次のページへ次のページへ


トップページへ

コンプロネット(コンクリート・プロダクツ・ネットワーク)/ 企画・運営:セルテック株式会社/ 技術サポート:有限会社ウインタースキン/
©1999-2017 Concrete Products Network All rights reserved.
E-Mail:
powered by WinterSkin