■私のコンクリート補修物語
第3部 塩害による鉄筋腐食 堀 孝廣

3.3 腐食の化学

 コンクリート内の鉄筋の錆びに話を進める前に、腐食の化学的な側面について、簡単に触れておこう。尚、腐食(corrosion)と錆び(rust)の使い分けは、腐食ということばは、金属が酸化する現象を、錆びはその結果として生じた腐食生成物について表すものとする。

 自然界で金属の表面は、どんな材料でも必ず酸化物薄膜で覆われている。この酸化物薄膜は、5nm(nmは、10-9mで1/1000μm)以下のため可視光に対して透明であり、金属光沢は失われない。わかりやすいところでは、アルミとかステンレスとかを想像してもらえれば良い。鉄を切断してむき出しにしたままpH11以上のアルカリ性溶液に浸漬すると、切断面の表面に不動態皮膜ができる。しかし、切断面は金属光沢をもったままである。黒錆びが不動態皮膜と勘違いされることが多いが、不動態皮膜自身を色で捉えることはできない。ちなみに黒皮は、鉄が加工される時に高温(通常800℃以上)酸化されてできた酸化膜(ミルスケール)であり、これも不動態膜とは言わない。

 大気中で乾いて安定した鉄の表面は、以下のような構造をもっているという。

 ここで、酸化鉄類似層、マグネタイト類似層としているのは、化学的には酸化鉄、マグネタイトと良く似た挙動を示すが、結晶学的には酸化鉄、マグネタイトにはなっていないものを表す。図中では酸化鉄類似層とオキシ水酸化鉄を分けて表示したが、一緒にオキシ水酸化鉄層と表すことも多い。酸化鉄類似物とオキシ水酸化鉄では乾燥の程度が異なる。

 上の状態にある鉄の錆び成長メカニズムとして、増子氏はその著書『さびのおはなし-日本規格協会』の中で以下のように説明している。

 先ず乾いた状態から水に濡れた状態に移行すると、金属層と錆び層との間に導電性を生じ、錆びが金属鉄により還元されて、(1)式によりマグネタイト類似物ができる。

 しばらく経つと鉄が直接酸化されて、(2)の反応が起こるが塗れた錆び層中を酸素が拡散するのは容易ではなく、反応はあまり進行しない。しかし徐々に乾いてくると、酸素が進入し易くなり、大きな速度で反応が進む。

 乾いてくると(2)の反応と同時に、以下の反応も進む。

 更に乾燥が進むと、金属鉄と錆び層との間の導電性が途絶え、マグネタイト類似物の酸化が進む。〔厳密な意味での(結晶化の進んだ)マグネタイトは、常温で酸化しない。〕

 (3)、(4)式の反応は、以下のような反応として紹介されていることもある。

 また、マグネタイトは FeO・FeO3とも表される。

 錆びの色と、特徴を以下の表に示した。


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