■コンクリート用混和材料の常識
第04回:高性能減水剤・流動化剤(その2) 藤田 康彦

流動化剤と高性能減水剤の関係は
これまで紹介して来た混和剤は、すべてコンクリートの練り混ぜ時に添加するものでした。しかし、すでに練り混ぜられたコンクリートに後から分散剤を添加してもセメントの分散効果は得られます。しかも、後から添加した方が少ない添加量で同等の効果が得られます。これを後添加効果と言いますが、流動化コンクリートはこの原理を巧みに利用したもので、高性能減水剤の応用編と言っていいでしょう。

流動化剤は、『あらかじめ練り混ぜられたコンクリートに添加し、コンクリートの流動性を増大させるために用いる混和剤』と定義されており、遅延成分やAE剤を配合した製品も作られていますが、作用機構や主成分は高性能減水剤とほぼ同じです。


図-1 高性能減水剤と流動化剤

後添加効果とは
図-2 はナフタレンスルホン酸を同時添和または後添加した場合の添加量と吸着量およびゼータ電位の関係です。同時添加では後添加に較べて吸着量が大きくなっていますが、ゼータ電位を-15 ~ -24mVに対応する添加量を比較すると、後添加では同時添加の半分の量になっています。


図-2 添加時期とナフタレンスルホン酸の吸着量およびゼータ電位の関係

後添加効果のメカニズム
この様な後添加効果のメカニズムは、セメント構成成分ヘの分散剤の吸着挙動から次の様に考えられています。ナフタレンスルホン酸塩を例にご説明しましょう。

ナフタレンスルホン酸塩を練り混ぜ水と同時にセメントに添加すると、解離したナフタレンスルホン酸はまずセメントのC3AとC4AF表面に吸着します。吸着したナフタレンスルホン酸は負電荷を発生しますが、C3AとC4AFの激しい水和反応は進行し、形成された帯電層は水和生成物に覆われて遮蔽されてしまいます。練り混ぜ水中に残存するナフタレンスルホン酸は出現した水和生成物表面に吸着し新たな電荷を付与しますが依然C3AとC4AFの水和反応は継続し、新たに形成された帯電層も埋没してしまいます。セメントの初期水和が一段落するまでこの現象が繰り返され、セメント粒子の分散を維持するために大量のナフタレンスルホン酸が消費されます。

これに対して、セメントの初期水和が一段落した段階でナフタレンスルホン酸塩を後添和すると、C3AとC4AFの急激な水和が終息しているので水和生成物に消費される量が少なくて済みますし、遅れて水和反応が始まるC3SとC2Sにナフタレンスルホン酸が効率良く吸着するので少ない添加量でセメント粒子を分散出来るのだと考えられています。

弁慶の泣き所
ナフタレンスルホン酸塩やメラミンスルホン酸塩はいずれもセメントの水和反応を阻害せず、空気連行性を持ちません。この特性ゆえに高性能減水剤として単位水量を大幅に低減したり、使用量を増減してコンクリートのコンシステンシーを調節する事が出来るのですが、一方で比較的短時間で分散力が低下しスランプロスが生じると云う大きなハンデを背負っています。流動化コンクリートの製造には、図-3 に示すように3つの方法が考えられますが、工事現場で流動化剤を添加攪拌する現場添加方式を採らざるを得ない最大の理由がここにあります。


図-3 流動化コンクリートの製造方式

スランプロスはポンプの閉塞や、ジャンカの発生など重大な欠陥につながります。また、トラックアジテーターのドラムを高速回転させる時の騒音や排気ガスの発生、流動化工程に拘わる品質管理体制や責任所在の問題など、現場の負担がたいへん大きいため下の様に様々なスランプロス防止方法が考案されましたがいずれも流動化後のスランプロスを克服する切り札にはなりませんでした。

  1. 流動化剤に遅延剤を配合する

  2. プラントで流動化剤を添加後アジテートせずに運搬し、現場で攪拌する。

  3. 運搬中に流動化剤を少しずつ繰り返し添加する。

  4. 流動化剤を顆粒状にして徐々に溶けるようにする。

一方、プラント添加型流動化剤の研究も精力的に行なわれ、ポリカルボン酸塩系などのプラント添加型流動化剤もいくつか開発されましたがあまり使用されませんでした。価格が高い事と製造責任の問題を解決出来なかった事が主な原因の様です。しかしながら、その後の研究によりスランプロスの少ない高性能減水剤が数多く開発され、今日の高性能AE減水剤へと進化を続けています。

現在でも流動化剤はナフタレンスルホン酸塩とメラミンスルホン酸塩を基剤とするものが主流ですが、ポリスチレンスルホン酸塩系の粉体を水溶性フィルムでパックした粉体型の流動化剤が徐々に普及して来た様です。スランプロスの問題やベースコンクリートに使用される混和剤との相性など、改良すべき点は残されている様ですが、取り扱いの利便性から今後も需要は見込まれるものと思われます。

【参考文献】
界面活性剤便覧(産業図書株式会社)
新・界面活性剤入門(三洋化成)
セメント・コンクリート用混和材料(技術書院)
新・コンクリート用混和材料(シー・エム・シー)
コンクリート混和剤の開発と最新技術(シー・エム・シー)
コンクリート技術の要点(日本コンクリート工学協会)
コンクリート材料・工法ハンドブック(建設産業調査会)
流動化コンクリート施工指針・同解説(日本建築学会)
流動化コンクリート施工指針(土木学会)
高性能AE減水剤コンクリートの調合・製造および施工指針・同解説(日本建築学会)
高性能AE減水剤を用いたコンクリートの施工指針(案) (土木学会)
高性能AE減水剤について(コンクリート用化学混和剤協会)
JISハンドブック(日本規格協会) 他


前のページへ目次のページへ