■亀の子コンクリート考
第三十九回:高流動・即脱はできないか 小林 映章

高流動は、騒音対策という環境面や高強度で肌面のきれいなコンクリートを作りたいという製品の品質面などを原動力として生まれ、流動性のよいコンクリートをごく低い振動で型枠に充填できることを特徴としている。大型製品向きである。一方即脱は生産性を高めるために、最低の養生時間で製品を型枠から取り出すことができるように、流動性のない(ゼロスランプ)コンクリートを高振動高圧で締め固めるものである。小型製品向きである。もし即脱に高流動の技術を導入することができれば、多くのコンクリート製品の製造原価を大幅に低減することが可能となり、さらに、従来即脱で問題になっていた、製品に空隙が多い、そのため製品の強度や耐久性がよくない、肌面が粗いといったような問題をかなり解決できることが期待される。

成形時に流動性がよく、成形後直ちに脱型できる条件とはどういうものだろう。大まかに言うと、

  • 練り混ぜ後5~10分程度は凝結が始まらない。
  • 凝結前は、低い水セメント比でもチクソトロピー性を持っている。
    したがって、適度の振動で流動化し、型枠に充填できる。
  • 練り混ぜ後5~10分程度のポットライフの後、急激に凝結が進行し、型枠を除去できる程度に保形性が高まる。
  • 0.5~1時間程度で運搬可能な程度に硬化する。

硬練りコンクリートの流動性を良くするために界面活性剤が有効なことはよく知られている。また、有機高分子物質の溶液はほとんどがチクソトロピー性を有しているが、これは溶液内で絡み合って凝集していた高分子が、振動により分子が伸びて絡み合いが緩和されるからである。これらのことは、高分子界面活性混和剤が即脱で有効なことを示唆している。現段階では否定されるような高重合度の混和剤が効果を発揮するかもしれない。

一方粒子状物質についてみると、球状あるいは球状に近い粒子に比して棒状の粒子は一般に充填性が悪く、占有体積が大きい。この関係は水を加えた湿潤状態でも変わらない。このような棒状粒子に振動を加えると、粒子の位置が変って動きやすくなり、振動が止むと再び動き難くなる。すなわち、チクソトロピー性が現れる。

セメント粒子などの形状に工夫を凝らすことによって即脱コンクリートにチクソトロピー性を持たせることは難しいが、分子形状を工夫した高分子界面活性混和剤を添加して、セメント水和物に大きなチクソ性を持たせることは、困難ではあるが、不可能ではない。

流動性コンクリートを一瞬にして保形性を持つ程度に凝結させるためには、特殊な凝結促進剤が必要であろう。この特殊な凝結促進剤は、水に接してから一定時間は凝結促進性を発現せず、ある時間を過ぎると発現するものが好ましい。かつてセメント分散剤(流動化剤)として用いる混和剤のスランプロスを分子レベルで防止するために、混和剤をあらかじめエステル、酸アミド、酸無水物の形にして分散性が発現しないようにしておき、コンクリート練り混ぜ中にコンクリートのアルカリで加水分解して分散性が発現するように分子設計する方法が報告されている。これが実用化したということは聞かないが、参考になる方法である。

流動性と即脱性を兼ね備えたコンクリートを作り出すことは至難の技かも知れないが、これができればコンクリート製品の生産性向上に計り知れないほどの寄与をするし、社会の受ける恩恵も大きい。


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