■亀の子コンクリート考
第三十三回:ときどき立ち止まってみよう —問題が判っていてもどうしようもない?— 小林 映章

前回、ペニシリン、DDT、PCB、フロンといった、それが市場に現れたときにはまさに我々の生活を変えてくれる宝物と考えられていたものが、それらが持つ優れた性質が逆に作用して我々の生活を脅かすものであることが判り、使用禁止になったことに言及した。これらの中でも、PCB、フロンなどは地球圏内に広く拡散したままで消滅せず、地球上の生物を脅かし続けている。

衆知のように、現在地球上には上のような化学物質よりももっと強大な脅威物質(あるいは技術)が存在している。これらはどれをとってみても初めには人類の未来を保証してくれるものとして世界こぞってこれを歓迎したものである。これらの最大の問題点は人々に深刻な影響を及ぼすことが判りながら、現在余りにもそれに頼りすぎているためにその利用を止められない状態が続いていることである。その最たるものは原子力であろう。原子力の利用は人類のエネルギー問題に関わり、さらに最強力の兵器となっているため退くに退かれない状態に陥っている。原子力利用で生み出される放射性廃棄物は処理の目途がつかないままに増え続け、その処理は将来に任されている。

いま非常な期待を持たれながら、いつか原子力以上の問題を社会に投げかけそうなものに、遺伝子組換えがあるように思えるがどうだろう。インターネットも別の観点から問題になるかもしれない。これらの問題点は、ちょっと学べば誰でも簡単にその技術を駆使することができることである。原子力の場合には、国があるいは世界が規制しようと決めれば規制できる可能性がまだあるが、遺伝子組換えなどは、国や世界が規制しようと決めても、個人個人が皆その気にならない限り規制できるものではない。これから数年も経たないうちに深刻な問題が浮上するかもしれない。

さて建設分野で似たような問題を抱えているものはないだろうか。建設業は広大で、何かあると社会に与える影響が極めて大きいが、幸いにして原子力のような深刻な問題は見当たらない。しかし、全く安心かといえばそうではない。

コンクリート中の6価クロームの問題が言われているが、これはそれほど問題ではないと思う。その量、密度、溶出の可能性等を考えると、学校給食に使われていた合成樹脂容器から溶出すると騒がれたホルムアルデヒドと同じ類であろう。建設分野で問題があるとすれば大量に舗装などに使用され続けているアスファルトかも知れない。芳香族炭化水素が主成分のコールタールが発ガン性を持つということで問題になって久しいが、アスファルトは、もし環境や状態が変わって我々の生活環境中に放出されてくれば、コールタール成分よりも危険な、縮合多環芳香族化合物を主成分としている。大量に使用されているだけに関心を持ち続けることが必要であろう。いずれにしても地球上になかったものが大量に使用され続けているときは常時とは言わないまでも、ときどき中身をよく見つめることが必要である。


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