■亀の子コンクリート考
第十七回:ローテク産物の寿命ハイテク産物の寿命 小林 映章

東工大本川達雄教授の著書に「ゾウの時間ネズミの時間」(中公新書)というのがある。時間はニュートン物理学で明確に規定されているが、生物の時間は一定ではなく、ゾウとネズミではネズミの方が時間の経過を速く感じているはずである。我々が体感できるもっとも身近な時間は心臓の拍動数である。ヒトの心臓は1秒に1回打つが、ハツカネズミでは0.1秒、ゾウは3秒、クジラは9秒かかる。

いろいろな生物について心周期(拍動数の逆数)T(s)と体重W(kg)の関係をとると次のようなきれいな関係式が得られる。

T = 0.25W0.25
また生物のエネルギー消費量は生物の大きさによって異なり、ゾウの単位重量当たりのエネルギー消費量はハツカネズミの1/18に過ぎないという。そこで単位体重当たりのエネルギー消費量E(J/kg)と体重W(kg)の関係をとると、これも次のようなきれいな関係式となる。
E = 4.5W−0.25

時間Tと単位体重当たりのエネルギー消費量Eを掛けると一定値となる。すなわち、生物の種類に関係なく心臓1拍分のエネルギーは1ジュールということになる。これに一生という時間を掛けると15億ジュールになる。すなわち、生物はみな一生の間に単位体重当たり15億ジュールのエネルギーを消費する。
エネルギー量は物理的にいうと仕事量であるから、生物はみな一生の間に同じ量の仕事をするということになる。すなわち、せかせか仕事をすると短命で、のんびり仕事をすると長命ということになる。

上記の関係は定性的に社会現象にも当てはまるように思われる。すなわち、エネルギーを大量に注ぎ込むと時間が速く進み、その逆も成り立つ。現在ハイテクノロジーにはヒトとお金が大量に投じられており、ローテクノロジーには余り投じられていない。人とお金が大量に投じられたということは、エネルギーが大量に注ぎ込まれたことと等価である。したがって、ハイテクの代表的産物、例えばパソコンでは時間の進みが速く、次々とレベルアップした次機種で置き換えられてしまうことになる。ハイテク機器の最先端を走るのは軍事用機器である。軍の装備がとても一般社会では考えられないような速さで更新されていることは衆知である。

一方、建設分野のコンクリート構築物に付いてはどうであろうか。この分野で仕事をする一人としてローテクと呼ばれるのは余り気持ちのいいものではないが、コンクリート単位重量当たり注ぎ込まれたエネルギーはパソコンに比して3ケタ又はそれ以下と考えられる。ということは、パソコンの寿命を平均10年とすると、コンクリート構築物は、2ケタ、3ケタ長寿命とは言わないまでも、少なくとも10倍の100年以上の寿命があって当然である。我々は期待どうり100年、200年の耐久性を持ったコンクリート構築物を社会に提供することにほこりを持ちたいものである。


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