■亀の子コンクリート考
第十五回:いま覚えた知識はいつまで通用するか 小林 映章

我々が学生の頃は基礎をしっかり身に付けることを厳しく教わったものである。基礎さえしっかりしていれば社会に出てどのような仕事を課されても対応できる、と教える方も教わる方も考えていた。現在でも基礎をしっかり身につけていなければならないことは昔と変わりがないだろうが、社会の変化、科学技術の進歩についていくためには、社会に出てからのたゆまざる勉学がいちだんと必要とされるようになってきている。特に情報やバイオといった変化の激しい分野で仕事をしている人々は大変だろうと思う。

最近ある雑誌を読んでいるときに面白い記事に出会った。東工大の清水康敬教授の調査によると、いま知識の半減期は平均5年くらいとのことである。分野別にみると、

  工学系全般   6.3年
  情報系     4.9年
  建築系     8.6年

ということで、建設全般では9年くらいと考えてよかろう。建設関係で仕事をする我々の知識は9年経つと半分は使い物にならなくなるわけである。逆にいうと半分は9年前の知識で通用するということになる。この通用する半分は基礎的知識と考えることができる。

最近はコンクリートのことが話題になることが多いため、素人の耳にもアルカリ骨材反応などという難しい専門用語が飛び込んでくる。1,2年前までは、コンクリートの膨張による破損ということになると、素人には鉄筋の腐食くらいしか思い浮かばなかった。現在ではアルカリ骨材反応などという用語が飛び込んでくるのであるから、一般人にとってはこれはまさに新知識である。

アルカリ骨材反応というのは1940年に米国ですでに見出されたということで、その分野の人達にとっては古い話である。すなわち、ある種の骨材とアルカリ金属イオンが反応してコンクリート構築物に異常膨張が起きることはすでに60年前に見出された現象で、コンクリートの耐久性に関係する重要な基礎知識である。この基礎知識の重要さは半世紀経ても一世紀経ても変わることはあるまいが、アルカリ骨材反応のメカニズムについてはなお不明な点が多いし、それを防止する、あるいはそれによる損傷ヵ所を内部まで修復するということになると、とても確立した知見があるとは言えず、なお新知識が積み上げられており、あるものは真実性が確認され、あるものは誤りであることが判明するという状況にあると思われる。すなわち、アルカリ骨材反応に関係した知識に限ると、この半減期は5年以下かも知れない。

建設分野における知識の半減期の短いものに混和剤がある。セメントと骨材だけからなるコンクリートでも構成成分や硬化反応後の成分が複雑なところに、有機の界面活性剤のような混和剤が関わるのであるから、混和剤が混入されたコンクリート系はさらに複雑になり、どこをつついても「?」にぶつかってしまう。混和剤が関係する知識はどんどん改新され、日々学習することを必要としている。混和剤に関係する技術者は日々加わる新知識にきっと胸を躍らせていることだろう。


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