5月末に東証マザーズに上場したインターネット関連企業が、一般新聞でも取り上げられていた。クリック数保証広告の企業で、社長がニュージーランド人という意外性が強調されていた。
その日、当コンプロネット相棒の手島チャンとこれを肴に酒を呑んだ。
目もくらむような大金をつかんだ(だろう)その社長のジョニーとは、彼の苦闘時代に会った。と言ってもほんの3年ほど前だが。
彼は、レンタルサーバーの会社を、私の勤務する会社の英会話教師だったティムと共同で設立したばかりだった。事業が立ちあがりつつあり、ヒト、モノ、カネのいわゆる経営資源がそろわないときだ。不似合いなほど立派な部屋を借りていたが、フロアーに万年床の布団など敷かれ散らかり放題だった。プログラマーの同じニュージランド人が一人と、東大のアルバイト学生が一人だけの小さな所帯でもあった。
彼らの販売を手伝うこととし、コンピューターも購入し、それまで私と一緒に仕事をしていたT君が、その事務所に移っていったのはそれからすぐだ。このインターネットビジネスへの関与は、私のそれへの憧憬を現実的な夢に変える小さな一歩でもあった。
彼はこのビジネスを踏み台にして、米国のクリック保証広告会社との提携に成功する。結局、その米国企業の日本子会社を設立して転進するのであるが、米国資本、ベンチャーキャピタルと並び、彼も大株主の一人となったのである。
踏み台の企業は今、ティムが新しいビジネスモデルをひっさげて盛んにPR中だ。
先日は一般紙の派手な広告に驚いたばかりだ。彼も株式の上場公開を狙っているにちがいない。
現在の私はこのどちらのビジネスにも関係はない。彼らから見れば私は、リスクテイクできない臆病な経営者で、ベンチャースピリッツのかけらもないということになろうか。彼らの話を聞いていると、そういう自虐的な思いに囚われるのである。彼らのビジネス論理は理屈で分かっても、感覚がついていかない世界のひとつだろう。
地道なインターネット事業をしよう、と手島チャンと組んで一年は過ぎた。ウェブサイト運営ビジネスにしぼって、そのソフトもだいぶ蓄積できてきたように思う。クライアントもすこしづつだが増えている。
ジョニーやティムは評価しにくい人種?だ。バブルに咲いたあだ花のごとくやがて消えていくかもしれない。一攫千金を得た個人の成功と、公的な存在となった企業の評価には時間軸が要る。株価の下落や業績の悪化という試練はこれからなのだ。
もう私の年になれば、こうした一攫千金のクィックマネーはそう欲しくもないが、手島チャンは違うだろう、と酔いにまかせて尋ねてみたら、「じっくりやります!」とはぐらかされた。
成功の素は強い欲望である!、という言い古された箴言を、最近仙人の風格が出てきたこの若き友に贈ろう。いつか晴れの日が来ることを願って。
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